第95話 手のひらサイズ

 街の出入りは正門からであり、そこを通るには通行証、まあ身分がわかるものが必要になる。


「俺たちはギルドカードがある。特に重要なのは後ろの精霊の模様だ」


 そういってリーにギルカードを見せる。月明かりに反射して、精霊の模様がはっきりと見える。


「商人なら街の領主の認可が必要だし、冒険者はギルドから手軽に発行してもらえるものだが、代わりに商売は禁止される。それに身分の保証にもなるが、様々な制約が伴う。って詳しい話はいいか。

 ともかく、これがないとリーを街に連れ込むのに手間がかかるな」


 街の雰囲気などは随分と古めかしい感じがするが、硬貨はギルドカードから引き落としができたり、街の通行が厳重だったりと、現代に近いシステムが備わっていることが多いのがこの世界だ。

 キズナリストがその最たるものかもしれないが……。


「ツムギ様、リーさんのアビリティ……あぷすういーぷ? で直接街に入り込むことができるのではないでしょうか?」


 オウカの意見はみんな考えたことだろう。クラビー以外かもしれないけど。


「可能ではある。だけどその後が問題だ。

 まだまだ俺たちはこの街でお世話になる。いきなり知らない子を一人連れて歩いてたら何を聞かれるかわからない。

 しかもリーは精霊だ。羽の生えた見た目は目立つだろう」


 リーは精霊らしい、と言えるかわからないが、背中に羽を生やしている。

 シルエットだけ見れば、確かに精霊の模様と一致するのだ。


「この街は精霊の崇拝者も多い。だから目立ち方は半端じゃないだろうし、正直面倒」

「あれ? それでは、私はどうして入れたのでしょう?」


 オウカが首を傾げる。


「オウカは奴隷として入ったんじゃないか? 奴隷の場合、商人が認可を受けているなら商品としての扱いだし」


 と言っても。オウカは世間では嫌われているらしい妖狐だ。今は頭巾を被って隠しているからいいが、これもばれたらなかなかに問題になりかねない。

 っていうか、オウカを売ったのって魔族のアンセロだったな……あいつが商人の認可を貰っていたとは到底思えない。


「あの魔族だったら地下に穴掘ってこっそり潜り込んでそうだな」

「たしかあのダンジョンはもう埋めてしまったんですよね」

「そうなんだよな」


 ダンジョンは積極的に破壊されていく。

 以前オウカと潜ったスカルヘッド・ゴブリンのダンジョンもすでに入り口はふさがれているはず。


「裏道を探すのもなし、リーを奴隷に仕立て上げるのもなしだな。シオンに殺される」

「うーん」


 二人で悩んでいると、リーが口を挟んだ。


「ツムギ、結論としては、吾が他人の目につかなければいいのですね?」

「そういうこと、だな。うん」

「それでは」


 肯定すると、リーの全身が白く輝く。

 そして、その光が徐々に小さくなり、手の平ほどのサイズになって発光が収まった。


「このサイズなら他者に視認されることもないと思われます」


 俺の手のひらに、小さなリーがちょこんと降り立った。

 おお、すっげえファンタジー。


「これなら、いけるな」

「よかったです!」

「あの……クラビーのけもの……」


 クラビーが寂しそうに口元をへの字にしていた。知らんがな。

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