第94話 三人とも無事

「ぐぇ」


 硬い地面にぶつかった勢いでカエルみたいな声が出た。

 落ちた場所は、ダンジョンの外側。つまり森の中だった。


「申し訳ございません。急な発動だったため、着地位置が不安定になってしまいました」

「んや、それはいいけど」


 隣で何事もなかったかのようにしているリー。

 倒れた俺の胸元にオウカ。

 三人とも無事だ。


「ってクラビーはどうした」

「……?」


 リーに問うと、何のことかと言わんばかりの首傾げ。

 クラビーはもう人としてすら認識してなかったの?


「ツムギ様、入り口は完全に壊れてますが」

「うーん」


 立ち上がってから、改めてダンジョンの入り口を確認する。

 オウカの言う通り、板戸がはめ込まれていた岩も崩れており、ダンジョンそのものが崩壊したことが分かる。

 つまり、中にいたモンスターもクラビーもぺちゃんこ……。


 オウカが自身のステータスを開く。


「まだ大丈夫みたいです。早く探してあげないと」

「どうやって探すかなあ」


 クラビー探知機なんてものはありやしないし。


「リー、特定の相手を探すアビリティとかはないのか?」

「特定ですと、汝とその従者までのものしかありません」


 結構限定的みたい。

 てか、オウカを一緒に脱出させてくれたのは、俺の奴隷だからかい。

 この精霊、もしかして人を人として認識してないな?


「~~~~!」


 悩んでいると、ズボリと地面から何かが生えてきた。

 腕だ。細い腕が一本生えてきた。


「ツムギ様、クラビーさんじゃないですか!?」

「いや待てオウカ。クイーンスライムみたいに、腕に擬態した新手のモンスターかもしれない」

「っぷは! なわけないじゃないですかぁ! クラビーはクラビーですよ!」


 ツッコミの勢いで、クラビーが地面から生えてきた。

 縄で縛られてたはずなのに、良く動けたもんだ。


「無事でよかったよ、クラビー」

「優しそうな声なのに顔が馬鹿にした笑みですよ? この人も鬼畜ですう」


 さすがに疲れたのか、クラビーが地面に座り込む。


「それはそうとクラビー、昇格試験はどうするんだ?」

「……………………ああぁぁ~」


 頭を抱えて地面に伏せる猫耳。

 クラビーをいじりすぎたせめてもの報いとして、しっかりと報告しないとな。


 ダンジョンは踏破できませんでした、と。


***


「は゛ぁ゛ぁ゛……」


 女の子らしからぬ、重いため息が聞こえた。

 後ろを向けば、落ち込んだ様子で歩くクラビーの頭をオウカが撫でている。

 身長的にも、見た目年齢的にもクラビーの方がお姉さんだと思うのだが、そういったことは気にしないのだろうか。


 現在、四人で街まで戻っている途中である。

 街を出たのが旅の終刻午後6時頃。真上に月が昇っているので、いまは王の影刻午前0時くらいだろうか。


「街に着くころにはギルドも閉まってるだろうし、リーはとりあえず俺たちの宿に……」


 言葉と共に足を止める。


「ツムギさん?」

「どうしましたかツムギ様?」

「えっと、な……」


 羽の生えたゴスロリの精霊をまじまじと見つめる。

 何でしょう、と言いたげにリーは首を傾げた。

 俺は思ったことを口にする。


「街に入るには通行証が必要なんだが、身分のわからないリーをどうやって入れればいいんだ?」

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