第93話 精霊掌

 もういないのかと思っていたが、思った以上にたくさん潜んでいる。


「ツムギ様?」

「さて、どうするか……」


 俺が動かなかったせいか、オウカが首を傾げる。

 一度目は俺自身も初めての相手だったから戦ったが。

 このダンジョンを踏破しなければならないのは、あくまでクラビーだ。

 俺とオウカの目的は達成されている。これ以上手を出す必要は無い。


「あの、ツムギ様、早くしないとクラビーさんが」


 悩んでいる間にもシノブモノたちにより、クラビーが赤い縄で縛られ始めていた。


「火炎弾」


 指から炎を放ってモンスターの邪魔をする。

 殺しはしない。それでは意味がない。


 と、ちくりとした感触。


「あっ」


 火炎弾を放つため伸ばしていた腕に、小さな針がささっている。

 途端、全身を痺れるような痛みが走る。

 おお、これが麻痺針か。


 そういえば、シノブモノのステータスにはアビリティがシノブスベというものしかない。

 あれが麻痺針の効果を持つ……とはとても思えないのだが。

 人と同じように、アビリティとは無関係に技術を持っているのだろうか。

 だとすれば、これまでのモンスターよりも厄介なのでは?


「ツムギ様、大丈夫ですか!?」


 硬直したまま倒れそうになった俺をオウカが支えてくれる。

 自分までクラビーと同じ目に遭うとは思ってもみなかったせいで少々恥ずかしい。


「すまない」

「いえ、ツムギ様は私がお守り――」

「ここは吾にお任せください」


 オウカの決めシーンを奪ったのはリーだった。


「契約主ツムギの危機を感知。対象を認識。

 ――排除します」


 リーが左腕を天井に向けて伸ばす。


「アビリティ――精霊掌モゥティタニア


 空気が揺れだす。

 屋敷内を不穏な地響きが這っていく。


 そして――天井が壊れた。

 崩壊した上空から大量のシノブモノ。

 そのさらに上には、拳だ。

 半透明の拳がシノブモノを襲っていた。


 その巨大な拳に少しでも触れたシノブモノが次々と蒸発するように消えていく。


 さっきから精霊のアビリティがチートすぎるんだけど……。


「ていうか」

「こっちまで落ちてますよ!?」


 明らかに拳がダンジョンごと破壊しにきている。


「モンスターを生成するダンジョンごと破壊するのは当然だと考えました」

「俺たちが巻き込まれている!」

「……人類の脆弱さを失念しておりました」


 価値観とか感覚が違う故の過ちならまあ……。

 なんて言っている場合じゃない!


「ツムギ様、崩れます!」

「リーなんとかしろ!」

「承りました。

 アビリティ――夢足歩行」


 背中に浮遊感。

 床に例の渦が出現していた。


 落ちるようにして、三人まとめて渦へと飲み込まれるのであった。

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