第92話 夢足歩行

「下僕……? どうしてそうなる」

「黒夢騎士の世界は原則相手に対抗手段はありません。同時に、相手へとダメージを与えることも不可能です。

 しかし、汝のアビリティはその次元をも凌駕して騎士を破壊しました。

 他の者も健闘はしていましたが、過去ここまでの力を発揮したのは汝だけです。

 よって、吾が尽くすに相応しい存在と言えます」


 なんか腑に落ちない……。

 てか、オウカはともかく、クラビーが健闘したってのは信じられないな。


「まあ、追々話し合うとして……まずはこのダンジョンから出ないとな」


 祠はクラビーによって破壊されてしまったが、大本である精霊を保護することができた。

 ひとまずギルドに戻ってから今後の対応を決めるべきだろう。


「あのお……」


 クラビーが申し訳なさそうに、ちょこんとだけ手を上げる。


「クラビー、まだダンジョンを踏破できてないんですよぉ、なんて」

「……次頑張ろうな」

「待って! チャンスを! チャンスを下さい〜!」


 クラビーが脚にしがみついてきた。


「と言っても、どうやってダンジョンに戻るか……」


 溜息を吐き出すように上を見上げる。

 遠くには微かな光。

 あそこまで戻らなければいけないのだが、この世界の風魔法は飛行能力まで至らない。

 地魔法で壁に階段……も、急すぎて転げ落ちることになりそうだな。


「吾が道を用意いたします」


 リーが腕を伸ばす。

 何もない空中を、カーテンでも掴むように引っ張った。

 すると、まるで本当にカーテンでもあったかのように掴んだ部分が歪む。

 リーが思い切り引っ張ると、布が千切れたかのように、その場に穴ができた。


「こちらから」


 穴の先には赤と紫が混ざったような渦が蠢いている。


「ここに、入れと?」

「その通りです」


 見本とでも言わんばかりに、リーが渦の中へと消えていった。


「ツムギ様……」

「まあ、大丈夫だろう……」


 クラビーの腕を掴んで引っ張る。


「え、どうしたんですかツムギさん!?

 不安に駆られて欲情ですか? 確かにベッドの上では暗くしてって言う女の子もいますけど、クラビー的には明るくてもあまり気に」

「しろ」


 投げ捨てるように渦の中に放り込んだ。

 渦の先からクラビーの悲鳴が聞こえるが、生きているようだ。


「うん、次元の歪みで身体が千切れるとかはなさそうだな」

「そのためにクラビーさんを投げ込んだんですか……」


 オウカがジト目を向けてくる。さすがにやりすぎだった。


「さーいってみよー」


 オウカの視線に気付かなかったフリをして渦の中に入る。


 ――すると、すぐに例の忍者屋敷が現れた。


「特定の場所を繋いで瞬時に移動できるアビリティ――夢足歩行アプスウィープです」


 渦から出るや否や、リーが告げる。

 便利なアビリティもあったもんだ。


「ツムギさん~」

「何転がって遊んでるんだ?」


 畳の上にクラビーが転がっていたので片脚でさらに転がしてみる。


「違いますよー! ツムギさんが放り投げるから転んだんじゃないですかー!」


 俺の脚を退けてクラビーが勢いよく立ち上がる。


「うっ」


 そして呻きながら倒れた。また痙攣してる。


 クラビーを放置して異界の眼を発動。


 ――天井裏に数十ものシノブモノのステータスが表示された。

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