第91話 ソ・リー
「え……?」
その感触に、頭に昇っていた血がすっと引いていくのを感じた。
なんだこれ。
おでこにキスされてる……?
その感触が離れて、再び翡翠色の瞳と目が合う。
「
リーとお呼びください。
まずは数々の非礼をお詫びいたします」
丁寧な口調で軽く頭を下げる姿はその若い見た目とは似合わない立派なもので、いやそうじゃない。
「お前が……精霊なのか」
「その通りです」
◆ソ・リー
俺の疑問に女が肯定をするが。異界の眼で見える情報は相変わらず名前のみだ。
「さっきの……騎士も、いやオウカたちが斬られて」
「私はツムギ様が真っ二つに」
「く、クラビーもオウカさんが斬られたあとに、ツムギさんもぺちゃんこにされて」
三人の光景が一致しない。
オウカにはちゃんと腕があるどころか、傷一つだってない。
顔を合わせて訝しげな表情を浮かべていると。
「疑問はもっともだと思います。説明いたします」
精霊が淡白な口調で始めた。
「吾が行使したアビリティは
リーの隣に黒騎士が現れる。
先ほどとは違い、敵意も悪意も感じない。ただの人形のように立っているだけだ。
「このアビリティは、相手の認識を一時的に別の世界に運びこみます。
幻覚、と言えば伝わりやすいでしょうか」
幻覚……以前戦った魔族のアンセロと似たような能力か。
問いを追加するために口を開く。
「それを、お前が行使した理由は?」
「吾は契約によって一時的に情報が分散していました。
しかし、祠が破壊されたことによって自身を再構成しなければならなくなりました。
再構成の合間の自衛として発動したと言えば、納得していただけるでしょうか」
「要は……時間稼ぎに、俺たちに悪夢染みた戦闘を見せていたと」
「戦闘は皆様の記憶に基づいて再構成されたものです。
しかしながら架空であるため、黒夢騎士はダメージを受けず相手を屠ります」
俺たちは、アビリティによって悪夢を見せられ、勝てもしない相手と戦わされていたわけだ。
「……趣味が悪いな」
「申し訳ございません。アビリティの特性ですのでご了承ください」
「そうだよな……責めているわけじゃないんだ」
想像以上にどうしようもない相手で、俺が感情的になりすぎただけだ。
もし黒騎士のような敵が実在したら、いまここで死んでいてもおかしくなかったんだ。
「ツムギ様、結局どういうこと、なのでしょうか」
不安そうにこちらを見つめるオウカ。
俺は軽く鼻で笑ってからオウカの頭を撫でる。
「夢落ち」
「そ、そうですかぁ~」
「よかったですぅ」
オウカとクラビーが空気の抜けた風船のように地面へとへたり込んだ。
「で、ここまで話してくれたということは、リーは敵ではないんだな」
「その通りです。吾は汝の契約者となり、下僕として仕えましょう」
ちょっとまって。話が急にぶっとんだぞ。
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