第370話 滝

「走るぞ!」

「はい!」


 教会を抜け出して地に降り、オウカと共に駆けだす。


「まだ惑わされている可能性があるから、俺から離れるんじゃないぞ!」


 矢を放ってきた連中が魔法を発動していると考えて間違いないだろう。

 そして不意打ちで攻撃をしてきたということは、殺す気があるということだ。

 場所も状態も不明確な環境だが、戦うしか選択肢はないだろう。


「ここが焔の森でいいんですか!?」

「ほぼ間違いないだろう」


 他にこんな大きな森があるなんて話は聞いたことないし、


「それに、敵は――」


 後方に向けて異界の眼を発動する。

 木の上にステータスが表示された。


◆エルフ

 種族 :妖精

 レベル:685

 HP :5060/5060

 MP :22000/23000

 攻撃力:6900

 防御力:5520

 敏捷性:6900


 アビリティ:共精識・魔矢・聖域接続

 スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法


「この世界にも、いるんだなッ!」


 飛んできた矢を間一髪で避ける。

 エルフなんて言ったら王道中の王道だが、


「モンスターですか!?」

「残念ながらな」

「じゃあダンジョンが近くに?

 いえ、魔王城があるなら人なんてとうの昔に逃げてますか」

「だな、ここ一帯に魔物が住んでいるかもしれない」

「リーさん、どうしてこんな場所に」

「案外、追ってきてるエルフと関係あるかもな」


 種族が妖精だし。精霊と妖精って同じもんじゃないのか?


 それ以前に、精霊であるリーにはステータスがなかったし、人類側にはステータスに運命があるはず。ステータスがあって運命力がないのは魔物と魔族だけだ。

 そんでもってレベルが高い。

 いまの俺じゃ勝ち目ないんだが。


「複数人いるんだよな?」


 先ほどから、他にレベルの違うエルフのステータスも見えている。

 にも関わらず、感じ取れる気配は一つだけ。

 レベル差によるものな気もしたが、これだけ堂々と殺気を放っていて気づけないわけがない。


「一旦安全な場所に逃げたいが」


 そんな場所あるだろうか。


「ツムギ様! 遠くに水の――滝の音がします!」

「まじか」


 先ほどまでそんなものなかったはずだが、戦闘に入って森の方の魔法が解かれたのだろうか。

 もしくは――罠?


「どちらにしても、行くしかない!」

「こちらです!」


 オウカの走る方角についていく。

 その間にも矢がいくつも飛んでくる。

 そんな中、すぐ俺にも滝の音が聞こえてきた。近い。目の前だ。


「川を越えま――」

「ッオウカ!」

「わっ!?」


 矢の本数が増え、そのすべてがオウカの方へ向かっていくのに気付いた。

 一瞬気が抜けたのだろうオウカの反応が遅れたことに気付いた俺は、スピードを上げ抱きつく勢いでオウカに飛び込む。

 二人で地面を斜めに転がり矢を避けたが――


 ――突然の浮遊感。

 視界に入ってきたのは滝と、真下に広がる水辺。


「ツムギ様!」

「このまま逃げるぞ」


 オウカを抱きしめ、滝の中へと落ちていった。

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