昇格試験(街周辺の森)

第33話 王の光刻

 ――鐘の音がする。

 うっすらと瞼を開けると、窓のない窓枠から光が差し込んでいるのが見えた。

 この部屋に光が入るのはお昼頃。この世界で言えば「王の光刻こうこく」である。

 寝ていたのか。

 嫌な夢を見たような気がする。


 昨晩は、オウカと共にスライムを倒しに行った。トラブルはあったものの、無事に目的は果たせた。

 オウカが倒したスライムの石は、結局俺がすべて集めてアイテムボックスにしまっている。

 泣き疲れて寝てしまったオウカをおんぶして森を抜け出し、人の気配のない道を通り、宿屋へと帰った。はずだ。


 俺も疲れていたのか、部屋のドアを開けた後の記憶がない。

 たぶん、オウカをおんぶしたままベッドに倒れ込んだのだろう。


 お昼まで寝てしまったが、冒険者には遅刻なんてものはない。

 冒険者稼業は時間に緩い。ギルドの閉まる時間は決まっているものの、とりあえずクエストを受けてしまえば、指定期限内に終わらせるだけだ。

 二度寝するか。


「おきなさーい!!」

「っ!?」


 大声が耳を劈く。

 慌てて身体を無理やり起こすと、目の前に14、5歳くらいの少女が立っていた。

 ベージュ色の長袖タートルネックに、膝よりも丈の長い暗緑色のプリーツスカート。

 木の葉のように鮮やかな緑色のロングヘアを揺らし、髪と色の同じ瞳がすごい剣幕で俺を睨みつけていた。


「なんだ、シオンか」

「なんだじゃないわよ、なによこれ!」


 黒タイツを覗かせたスパニッシュヒールで床を叩いた彼女は、そのまま俺の隣を指さす。 


 そこには、全裸で寝ているオウカがいた。

 着ていたはずの制服を枕にし、それをよだれでべとべとにしている。

 なんとも幸せそうな寝顔である。若干ニヤついているのは、楽しい夢でもみているせいだろうか。


「疲れてるんだ、寝させといて――」

「こんら起きろぉ!」


 俺の言葉も聞かず、シオンがオウカをベッドから引きずり落とした。

 衝撃に驚いたオウカは「ふへっ!?」と変な声を上げて何事かと周囲を見回している。

 そして、シオンとオウカの視線が交わった。


「あなた、奴隷でしょ?」

「ひゃ、ひゃい」

「奴隷の身分で主人のベッドに潜り込むなんて何考えてるの!」


 ドンッ


 シオンが再度床を叩く。

 その動作にオウカはびくりと肩を震わせる。


「ちょ、シオン落ち着けって」

「あんたもあんたよ!」


 怒りの矛先が俺に向けられる。


「この奴隷、妖狐じゃない!」

「妖狐だからなんだよ」

「妖狐だからなんだぁ? あんたのおつむは常識知らずの5歳児なの? 馬鹿なの? 馬鹿なのでちゅね!? この馬鹿ん坊!」


 ドンッとまたも床を叩く。


 なんだなんだ。

 状況についていけないぞ。

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