第177話 十数分前
――十数分前。オウカが巨大な岩に潰された頃。
***
学院の外から巨大な音がした。
「なんだ?」
そう声を上げたのはカイロスだ。
現在、俺はカイロスの手を借りながら学校中を走り回っていた。
シオンが攫われたのは、次の教室を確認したので確定だ。
人手が欲しいとオウカのところに行ったが、何故かいなかった。
「もしかすると、攫われたあの子を追いかけているかもしれない」
なるほど。
カイロスの言う通りなら、学院内のどこかに閉じ込められている可能性は低いか。
「外となると範囲が広すぎるな.....なにか絞り込める手はないか」
キズナリストを結んでいないからキズナ召喚も使用出来ない。
シオンがシオンパパと交信して脱出していればいいが、しかし先程のやり方を見るに手元で何かしら動作が必要なようだ。手足を縛られてたとしたら無理だろう。
非常にまずい状況である。
「王都で人攫いとなると、たぶんスラム街だろう。
あそこはなんでもまかり通る王都唯一の汚点だ」
汚点って……まあどの世界でも貧富の差は生まれてしまうのだろう。
ただ王都なら貧富よりも裏稼業的な方が大きいかもしれないが。そういうのもあるにはあるのだろう。
しかしさすが現地人。街の事をよく知っている。
「ご明察!」
誰かが叫んだ。
振り向くと、そこには苔色髪の男子生徒が立っていた。
パーカーの色は紫。俺と同じクラスか。あんなのいたかな。と言ってもまだ二日目だし、そもそも人の顔を覚えるのは苦手だ。
「確かに、かの少女はスラム街まで誘拐させてもらった」
「……目的はなんだ」
堂々と自白しやがった。
俺が問うと、男は口角をつり上げる。
「勇者候補よ、ソリーで売られた妖狐を知っているか?」
勇者候補だと、知っている……?
俺は反射的に異界の眼を発動していた。
◆ライムサイザー
種族 :魔族
レベル:1
HP :10/10
MP :10/10
攻撃力:10
防御力:10
敏捷性:10
アビリティ:擬態・偽息
スキル:吸収・液状化・王の唾液
「魔族か」
「俺様の質問に答えろ」
ライムサイザーがそう言った時、俺は既に相手の後ろに回っていた。
首元の数字は『11』か。一応アンセロの一つ上か。
まあいい。
苔色の後頭部を掴み、地面へと叩きつける。
「答える義理はない」
しかし――
「ひゃぁあっは!」
ライムサイザーの頭が水飛沫となって弾けた。
水滴は別の箇所に集まり再び男の形をなす。
ステータスが貧相だが、あのアビリティとスキル……。
「スライム系か」
「殺せますか?」
「お、おい、魔族とはどういうことだ」
その場を動けず、戸惑った声をあげたのはカイロスだった。
一応戦えるようにか、手に火球を発動させているが。
まあ、いきなり魔族と言われても戸惑うのは仕方ない。この世界では架空の生物扱いだし。
「スライム系のモンスターと思っておけばいい」
「はぁ? 俺様を魔物と同列にするとか不快極まりないないないないないんだが?」
ライムサイザーが半液状化してカイロスへと襲い掛かる。
「非常に興味深い光景だが、そこまでにしてもらおう」
聞き覚えのあるセリフと女性の声がした。
目の前に光の線が現れ、ライムサイザーを二分する。
「あぁ!?」
切られた本人は驚いた様子ながらも、半液状の身体は後ろへと下がって人の形に戻った。
「諸君が何をしていたのか問おう」
間に入るように立っていたのは、細長い剣を抜いた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます