第99話 クエスト失敗

「クエスト失敗か」


 ギルマスの第一声がそれであった。

 彼がその答えに至ったのは至極当然で、対して俺が表情を変えることはない。

 祠の形状を知り運べるものとわかっている上で、それが目の前にないのだから眉を顰められるのも仕方がない。


 現在俺たちはギルド長室にいる。その精霊について報告するためだ。

 ちなみに、クラビーは見かけなかったので今はいない。たぶん寝坊だろう。


「祠は保護前に破壊されました。その点についてはお詫びします。

 代わりというわけでもないですが、祠が破壊されたことによって――」


 俺の言葉に合わせて、隣に座っていたオウカの頭巾から小さくなっていたリーが出てきた。

 小さな光を帯びると、その姿が大きくなり、一人の少女のものへと変わる。


「契約に基づき、この街を保護下に置いていました。ソ・リーと申します」

「街の名前……」

「吾の名は旧精霊言語で月を意味します。今では言語自体知る者もいないでしょうが」


 ギルマスが目を見開いてリーを見つめる。


「これは驚いたな……祠の重要性は昔から言われてきたが、本当に精霊が守っていたとは」

「昔、と言っても三桁の年も超えてはいないかと」

「そうだな……まあ、俺が小さい時には精霊なんて滅多にみることのない上位の存在だったからな」


 ギルマスが過去を思い出すように言葉を連ねていく。

 精霊に憧れでもあったのだろうか。


「まあ、昔話はいいとして。祠から出てきた精霊を保護したというわけだな」

「そうなりますね」


 ギルマスがこちらに向きなおして話を進める。

 が、その顔は変わらず険しいものだ。


「祠が破壊されたとなるとまずいな」

「と言うと?」

「資料によれば、祠に眠る精霊のおかげで、街にはモンスターが入りにくくなっているとされる」


 ギルマスの説明に対し、俺はリーの方を見る。


「確かな情報です。吾は契約によって街を守っていました。

 大抵のモンスターであれば街の中には入ってこれなかったでしょう」

「それじゃあ、祠が壊れたいま、街にモンスターが入りやすくなってしまったわけか」


 それはまずいな。そこらでモンスターが出るようになったら街そのものが維持できないだろう。

 結構やばいことをしてしまったのでは。クラビーが。


「いや、いまは近くにダンジョンが発生したという情報はない。

 早めに新たな祠を作って、精霊と改めて契約を交わせば問題ないだろう」


 ギルマスがそういうのだから、確かな情報なのだろう。

 不幸中の幸いと言うべきか。

 にしても、そこそこ大きな街を一人で守っていたというのだから、リーって実はすごい精霊なのでは?

 ステータスも見えないし、スキルやアビリティも未知だし。

 まだまだチートを孕んでいそう。


 そんなリーが、少しだけ声を張り上げた。


「吾は既にツムギと新たな契約を交わしたので、街を守ることはできません」

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