第129話 逆鱗撃

「オウカ」

「はい」


 俺は黒騎士の動きに注視しながら、アイテムボックスの短剣を取り出す。

 同時に、オペレーションをオウカへと告げた。


「今回の黒騎士は、たぶん夢じゃない」

「だと思いました」

「俺があいつの相手をする。

 その間に、リーを引きずりおろせ」

「リーさんを、ですか?」

「リーは俺たちをみて契約の侵入者と言った。

 推測だが、リーは契約による自身の再構築を行っている。

 その時間稼ぎをするのが黒夢騎士ナイトメアの役割だ」

「契約……ご主人様とのではなく、邪視とのということですか」

「ああ、だから何とか妨害して、契約を中断させてくれ」

「分かりました!」


 オウカの返事と同時に俺は走り出す。

 黒騎士の役目はあくまで防衛。こちらが近づかない限りは攻撃してこないだろう。

 しかしそれではリーにも近寄ることができない。


「スキル――火炎弾!」


 空いた左手で火炎弾を放つ。

 黒騎士は鞘から剣を抜くとそれを一振りし火球を弾き飛ばした。

 この程度じゃ効かないか。


 黒騎士は俺を敵と認識したのか、一瞬にして詰め寄ってきた。

 俺は全身を翻してドーム内の端まで転がる。

 黒騎士は――追ってきた。

 よし、この間にオウカが動ける。


 目の前には振り上げられた黒剣。

 しゃがんだ大勢のまま短剣で迎え撃つ――が、姿勢が悪すぎた。

 黒騎士の力に敵わず、短剣が弾かれる。


 そのまま、剣が俺の肩を切裂いた。

 思わず、笑みを浮かべる。


「アビリティ――逆鱗撃リラフスト


 唱え――黒騎士の肩に亀裂が入る。

 相手の攻撃をそのまま返すアビリティ。

 痛みと、黒騎士の傷。

 これは現実で――黒騎士は、倒せる!


 よろめいた黒騎士は態勢を立て直すと――後ろを振り向いた。

 その先では、リーに飛び乗って声をかけているオウカがいた。


 まずい。


「うっ!?」


 肩の傷が思ったより深い。すぐに身体が動かない。


 黒騎士が動き出す。目で追うのもやっとな速さでオウカへと近づき。

 黒剣を振り上げた。

 オウカが目を見開く。


 それは、俺の奴隷いのちだ!


虚無界ラトゥ!」


 剣がオウカに接触する直前で――オウカが消える。

 俺と黒騎士の世界が白に染まった。


 間に合った……か。

 しかし、肩から流れ出る血が止まらない。

 アイテムボックスを開いて、回復薬を肩にかける。


 黒騎士はこちらへと振り返り、俺のことをじっと見つめる。

 攻撃にするには絶好の機会にも関わらず、動く気配はない。

 前回の時の様に、この空間を壊すといた気配もない。いや、あれは幻だから壊せたのか。


 肩の傷が癒え、俺は立ち上がる。

 それを見ていた黒騎士がこちらへと歩いてくる。

 

 ――兜を外しながら。


 その内側にあった顔は、俺だった。


 青い瞳の、紡車つむが紡希つむぎだった。


 

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