第130話 

「俺の真似とは、なかなかセンス悪いな」

「同意見だ。俺も好きでこの恰好をしているわけじゃない」

「確かに、お前はアビリティで生まれた存在。

 黒夢騎士ナイトメアは記憶から戦闘能力を作り出すんだろ?」

「如何にも、俺はお前の記憶から導き出された形でしかない」


「……それで? ここはドームの中とは別次元の位置にある。

 俺を殺さなきゃ、いまのうちにオウカがリーを助けちまうぜ?」

「それに関しては問題ない」

「……どういうことだ」

「怖い顔をするなよ。死んだ目がさらに死に急いでるぞ。

 別にオウカがどうなるとかそいう話じゃない。

 そもそも、この状態になった時点で、ソ・リーなんて無関係なんだ」


「……言っている意味が分からないが」

「この次元に黒騎士が移された時点で、ソ・リーの管理から外れる。

 あとはアビリティを喰らうだけ」

「喰らう……」


「分からないか?

 俺はお前だ。

 お前は何だ」

「…………喰らう側」




「そうだ、俺が絆喰らいだ」




「……理解が追いつかないな」

「黒騎士はお前の記憶から形成される。

 そこに俺も紛れていただけだ」

「それで、動けるようになったから、黒騎士を食べたと?」

「喰ったからと言って何かが得られるわけでもないがな。

 所詮は魔法の一種。エネルギーにしかならない」

「邪視では、ないんだな」

「確かに俺の目は青いが、お前の考えてる邪視とは別物だ。

 邪視にも善と悪がある。俺は善の方だ」

「喰らう側なのにか」

「喰らうことは生きることだ。そこに善悪はない」


「……ともかく、オウカも、リーも無事なんだな」

「残念だが、それについて頷くことはできない」

「さっきは無関係と言っていたぞ?」

「この場においては、な。

 現在も邪視の呪いが暴走していることに変わりはない。

 すぐにでも新たな防衛魔法を発動するだろう」


「なら、急がないとな。

 丁度いい、お前に聞きたいことがあった」

「答えよう、俺の力を司る魔法師よ」

「俺の顔で言われてもな……。

 実はな、絆喰らいの発動タイミングってのがまだわかってないんだ」

「そんなことか、お前ならすぐに気づくと思っていたよ」

「アビリティを使うと記憶があやふやなことが多くてな」

「それはまだ理性を保とうと抗っているからだ」

「理性……?」

「いいか、よく聞け

 絆喰らいはすべてを喰らう。そこに感情なんてものは必要ない」

「心を、殺せってことか」

「単純に言うなら、その通りだ。

 お前も薄々気づいているだろ?

 自身の心が徐々に虚ろとなっていることを」

「……まあ、な。

 ギルマスにはよくしてもらったはずなんだが、あいつが死んだってわかっても、特に怒りも悲しみも浮かばなかった」

「それが普通だ。お前にとっての普通なんだ。

 お前は自分の好きなものだけが好きで、それ以外には無関心だ」

「昨日、魔族にも同じことを言われたな……」

「それでこそ、喰らう側に相応しい」

「受け入れろってか」

「せざるを得ない」

「大好きなものを、守るために」

「さあ」


 すべて喰らいつくそう。

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