第131話 対象外
***
「消えた……!?」
目の前で黒騎士が消えたことにオウカは身体一つ動かせず、驚きだけが脳内を巡っていた。
すぐ視線だけを移動させ、自分の主がいないことも認識する。
驚いた勢いで精霊から離れた身体が宙を舞い、お尻から地面へと着く。
痛みに狼狽えてる暇はない。
(いまのは、ツムギ様の魔法……)
そうは考えるものの、彼女に確証はなかった。
オウカがツムギのステータスを見たのは、出会ったばかりの頃きりだ。
その時はスキルやアビリティまで見せてもらっていない。
さらに言えば、自分のステータスを見せろと言われたこともないのである。
ツムギのステータスは一般人を……否、そこらの冒険者を上回るものだった。
どんな人生を歩めば、あの若さで得られるのだろうか。
きっと、想像もできない経験を積んできている。
――なら、私は?
そう問いかけたくなってしまうが、肝心の人生というものがオウカの記憶にはなかった。
自分がどこで生まれて、どこから来たのか。
気づいたときにはツムギの奴隷になっていた。
それを仕向けたのは魔族。
これから魔族との接触が増えれば――記憶を。
「じゃない!」
オウカは獣のように頭をブンブンと左右に振る。
重要なのは今であると、自身に釘を刺す。
見上げた先には、宙に浮いたソ・リー。
流れるようにして、ツムギとオウカの間に入ってきた精霊。
少しだけ、不愉快な部分もあった。
慕っているものに他の異性が寄ってくるのは気分がいいものではない。
ツムギに魅力がある、なんてポジティブな捉え方はしない。
そもそも、ツムギに男性的魅力があるとはオウカも思っていない。
いまは、純粋に、主であるから。
救ってくれたから――それだけでいいのだが。
精霊は契約相手に依存して存在するようなことを言っていたと、オウカは思い出しながら。
力――精霊が求めたものはツムギではないと。
それが少し不愉快なのだと。
――だけど、
助けると主が言ったのだから、従うのだ。
彼女は奴隷であるから。
「リーさん!」
叫ぶ。もし反応を示してくれるのなら、自我が残っているのなら。
だが――
「アビリティの消失を確認。
新たなる防衛魔法を行使します」
感情のない声だけが返ってきた。
「対象は――対象は」
「……?」
攻撃がくるのかと身構えたオウカだったが、その様子がおかしいことに気付いた。
「対象は――対象が不明。
修復を行使――契約主は……情報が錯乱。何者かの妨害を確認。
自我を削除。再構築します」
戦っている。
オウカはそう感じ取った。
彼女は、精霊はまだ邪視と戦っているのだ。
「契約をすべて破棄。
対象を実存に絞り込みます」
宙に浮いていた身体がゆっくりと降りてきた。
その足が地につき、リーがオウカを見つめる。
その瞳は翡翠色だった。
「リーさん!」
あれは邪視に囚われたリーではない。
オウカは彼女の元へと駆け寄る。
「契約事項を更新。
対象外――邪視を確認」
「え」
「排除します」
言葉の意味を理解する前に――オウカの腹部を精霊の腕が貫いていた。
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