潜む過去(レルネー家)

第235話 レイミアの部屋

 暗闇で目を瞑り、静かに時を待つ。

 聴覚に意識を集中させ、何が来るか、来ないか。それをひたすらに追い続け。


 ガコッ、と蓋の開く音がした。


「旦那様、お待たせいたしました」


 僅かに光が差し込み、蹲った俺をメイドのラセンが見下ろしていた。


「もう大丈夫か」

「はい、この時間帯であれば他の者も近づきません。

 いまのうちにレイミア様の部屋へ」


 俺は大きめの木箱の中に収められていた。そこから出ると、周りは薄暗く、入り口から差し込む廊下の光で、物置部屋ということだけは把握できた。


「しかしまあ、こんな泥棒みたいなことする羽目になるとはな」


 レイミアとの話し合いに間違いがなければ、俺がいる場所がレルネー家の中にある物置部屋だ。

 婚約だの養子の話が出ているので、正面から堂々と入っても問題はないのだが、それだとインギーにも知られてしまう。

 急襲のため、運び込まれる荷物に紛れて屋敷に侵入させてもらった。


 レイミアによれば、インギーは魔法の才能がないものの、情報力にたけているらしく、養子になる男の存在も把握だけはしているらしい。顔を合わせた時に反応がなかったのは、俺がその養子候補だとまで知らなかったからだろう。この世界は写真とかもないのでその部分は仕方ないのかもしれない。


「というか、旦那様って?」

「将来レイミア様の伴侶となる方ですので」

「というか、結構喋るんですね」

「……」


 睨まれてしまった。だってこの人喋ったの初めて見たよ?


***


「よく来てくれた。ここが私の部屋だ」


 人目につかないように移動し、案内されたのはレイミアの部屋だった。

 といっても、大きな屋根付きベッドとか鏡台があるくらいで、随分と殺風景なものである。個人的にはこれくらいの方が落ち着いていいけど。


「で、その恰好はなんだ?」

「家ではいつもこれだが、なにか不都合でも?」


 レイミアの恰好は花紺青の髪と同じ色の薄いネグリジェ。髪はいつもの三つ編みではなく、ゆるめのツインテールにして両肩に流れている。おまけに、大き目の丸眼鏡までつけていた。


「これから急襲、するんだよね?」

「それはツムギくんが、だろう?

 私は寝るよ」

「あ、そういう流れなのね」


 手伝ってくれるわけではなかった。


「レイミア様、インギー様の開発されたという新しい奴隷魔法を確認なさらなくてよいのですか?」

「そういえば、それがあったね」


 思わぬところから援護をいただいた。

 インギーが今回使っている奴隷魔法は新たに作られたものだ。今までのものとの違いはキズナリストの効果が消えないこと。


「そんなものがあれば、今後の奴隷の価値が大きく変わる。

 それこそ大発明だよ。世界の法則に逆らうのだからね」

「ミトラス神から授けられる力だっけか……?

 人類だけが生まれた時からあるんだっけ」

「そうだね。架空の生物とされた魔族たちは強力な力を持っており、人類が対抗するために神から授かったのがキズナリストと言われていた。

 実際に魔族や竜を見てみると、このお話も本物かもしれない」


 そんな世界の法則に組み込まれたキズナリストに干渉できる魔法なら相当なものだと、結局レイミアも恰好はそのままついてくることになった。


「ツムギくんの魔法だって、その類なのだよ?」


 部屋を出るところで、レイミアが耳元で囁く。


「もちろん、いまは追究しないでおこう」


 レイミアが本当に信頼できる相手なら、今後の為にも絆喰らいのことを教えたほうがいいのかもしれないな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る