第236話 実験部屋
「今晩の作戦を整理しよう」
三人で歩きながら、レイミアが考えた作戦を確認する。
「最優先目的としては、マティヴァ嬢の安全だ。
ツムギくんの話を聞いていての推測だが、新しい奴隷魔法は発動に時間を要すると思われる」
「奴隷魔法ってそんなに高度なのか」
「現在使われているのはそうでもない。奴隷商人であればだれでも使える手軽なものだ。
だが、今回の魔法とは、キズナリストに加えてもう一つ相違点がある。
それは精神干渉だ」
「いまの奴隷魔法も精神に干渉しているんじゃないのか……?」
「誰がご主人様かわかるってやつかい? あれは主人の血を元に魔法から信号を送っているのだよ。
だから、自分のご主人様の時には脳に刺激が与えられる。
時々だが、そうした信号を過剰に感知して、恋だのと勘違いする奴隷もいるが」
なんか聞かないほうがよかった気がする。
「しかしツムギくんの話を聞いていると、マティヴァ嬢の友人は精神的にも隷属的だ。精神魔法というのはそんな簡単なものじゃないし、人格のあるものに対して使うなら相当な力が必要だろう。
魔法の才能がない兄上が使ったとなれば、何か媒体となる魔道具などもあるはずだし、いままでの流れから、支配には半日以上かかるとみえる」
「すごいな。そこまで仮説が立てられるものなのか」
「奴隷魔法専門の家だからこそだよ、さて」
ある部屋の前で止まる。
「ここは?」
「兄上が使う
最初の頃は兄上も奴隷魔法を開発して評価を得ようと、ここに籠っては実験を繰り返していたのだが、思うような成果がでなかったのか、いつの間にか庶民の女を連れ込んでは実験段階の魔法を使って遊ぶようになってしまってね」
うわあ、あんまり聞きたくない話だ。
「しかもその魔法がまたひどくて、どれも失敗ばかりで……末路を聞くかい?」
「遠慮しておきます」
「ああ、成功例があったね」
レイミアはちらりとラセンさんを見る。
「あ、そういえば」
妹がインギーについていたな。
まさか、妹も実験台に。
ラセンさんは無言のまま目を伏せていた。
「さて、いきなり開けば兄上がどんな顔するかな」
レイミアが口角を吊り上げる。
そして扉に手をかけて、押すように思い切り開けた。
「兄上、緊急事態ですよ!」
彼女は少しばかり楽しそうな声音を張り上げる。
薄暗い部屋で最初に目に入ったのは、床で青く光る魔法陣。
その中央には、天井から吊り下げられた手錠を嵌められて腕を無理やり吊り上げられたマティヴァさんの姿があった。
服装は乱れていないが、何時間その状態だったのか額から脂汗を滲ませ、顔は青白くなっていた。
「ぶっ!?」
インギーらしき男は、上半身裸で頭に黒い布を被り床に転がっていた。
「あら、お姉様じゃないですの」
転がった豚を黒のハイヒールで踏みつぶす妹メイド。
「え、あ? 実験台って」
「インギー様が、自己の欲望を表に曝け出す魔法を妹にかけた結果、ふくよかな男性に飴と鞭と罵倒を与える趣味に目覚めてしまったのです」
それは何の実験なのでしょうか……?
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