それぞれの旅支度(南の街 ソリー)
第136話 悪役モブ
「今日は来てくれてありがとう」
そう言ってソファの上で足を組む男。
ブラウンの髪は短く整えられて、若々しくも「デキる男」オーラを醸し出している。
以前数回話した程度だが、相変わらず怖い雰囲気を持つ人だ。
そんな彼は奴隷商人。
シオンパパである。
「それで、朝から従者を使って呼び出したのはなんですか」
「昨日、シオンがわんわん泣きながら帰ってきてね」
嫌な予感がする。
「どうも君に愛の告白をしたら断られたとか」
バキリと、彼の持っていたペンが折れる。
「はぁ……」
「まあそんな冗談言えるくらいだから、半分は嘘泣きだろう」
いや、丸々嘘泣きだろう。
愛の告白なんてされていないし。
受験生で言うところの「一緒の志望校だね、頑張ろうね!」くらいの気持ちじゃなかろうか。それで片方だけ受かって気まずい空気になるやつ。どうせ進学で離れ離れになるんだから気にすることじゃなかろうに。と、意識が逸れた。
「そこで私が間を取り持つというわけだ。
君へ直接依頼をしたい」
「……冒険者への直接依頼は、ギルドにバレるとまずいんじゃないですか?」
反抗してみる。
ギルドの業務には依頼の斡旋がある。仲介料を貰うことで運営しているのだから当然といえよう。
だからこそ、冒険者に直接依頼するのはギルドに睨まれることとなるのだが。
「裏では直接やり取りしている冒険者も多いことは、君も承知していることだろ?」
「え、まじか」
初耳なんだが。ぼっちだから情報が乏しいです。
「……まあ、そういうやり取りが表沙汰にならないのは、こういうことだ」
目の前のテーブルに一枚の小切手が出される。
額面金貨18枚……だと。
Aランク冒険者でも一度にこれは稼げないぞ。
「これを指定したお店に渡せば、その額を支払ってくれる。
普通に渡すのでは、ギルドカードでお金の動きが分かってしまうからね」
「話を聞こうか」
俺は聖人君子な主人公系キャラではないのだ。
どちらかといえば悪役モブである。
「簡単だ。シオンと一緒に学院に入ってもらう」
「具体的には」
「シオンのボディーガードだ。
奴隷商人は人を売り物にする。だから恨まれることもあってね。
シオンは自分が奴隷商人だと口にしてしまうタイプだから、変な奴に絡まれないよう守ってくれ」
「なるほど。
しかし、学費を払う余裕なんて俺にはないし、オウカだって連れて行かないといけない」
「そこはもちろん、この報酬を前渡ししよう。
学院には奴隷用のクラスもあったはずだ。そこにオウカくんを入れるといい」
やべえ。入らない理由が無くなった。
「……シオンはね、最近すごく頑張ってるんだ」
ふぅとため息をついたシオンパパが何やら語り始めた。
「君との取引に失敗してからは、真面目に学ぶようになってね。
それもあって学院に入ることを決めたのだよ」
シオンとの出会いは、俺がシオンに奴隷を勧められたときだったな。
確かに、あの頃はワガママ全開のお嬢様だった。
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