第135話 奇跡
「も……戻ったぞ」
「ただいまです」
「おっそーい! こんな時間まで何してたのよ!」
こいつ……この短時間で戻ってこれた奇跡を理解しちゃいねえ。
それはともかく、戻ってくるまでに大きな発見があった。
◆ツムギ ♂
アビリティ:異言語力・異界の眼・絆喰らい・竜刻世界・碧鏡の我・虚無界・精霊言語・精霊魔法
スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法・擬人化・火炎弾・竜威・竜息吹・幻視・逆鱗撃
なんと、リーのアビリティが俺にも使えるようになっていた。
が、ステータスだけだと今までのものがないし、なんじゃこりゃといった感じである。
試しに夢足歩行を発動してみたところ、見事成功した。
あくまで推測だが、この精霊魔法という括りに様々なアビリティが備わっているのだろう。発動できるかどうかは、それこそ契約者によるのかもしれない。
俺が知っている精霊魔法は僅かなので、リーに聞けるだけ聞いておいた方がいいだろう。
「まあいいわ、早く飛翔石を出しなさいよ」
シオンに急かされて、アイテムボックスから石を詰め込んだ袋を取り出す。
ぎっしりと詰まったそれを見たシオンは――
「これだけ?」
真顔である。
「少ないわよ! たくさん飛ばさないと流れが作れないじゃない!」
「こちとらひと戦闘したばっかでへとへとなんだが!?」
少ない時間の中、途中で目を覚ましたオウカと一緒に集めるも、どう考えても人手が足りなかった。
チッ、と女の子らしからぬ舌打ちをしたシオンは、パンパンと両手を叩く。
すると、後ろにあった倉庫が開き、複数の子供。
それと、大きな台車に積まれた大量の飛翔石である。
「結局備蓄を使う羽目になるのね」
「あるなら最初から使えよ……」
***
時間が来たのか、街の中のあらゆる明かりが消される。
街の中央に人が集まってきた。
「みんな、準備はいいわね?」
シオンの声に、子供たちが大きな声で返事をする。
彼らの手には山の様に飛翔石が握り締められていた。
「せーので上に投げるわよ。
せーのっ!」
真上へと放られた飛翔石。
その小さな勢いにも関わらず、エンジンでもかかったかのようにスピードを上げて空高く飛んでいく。
「お」
飛翔石の軌道が変わった。
まるで引っ張られるかのように、そのすべてが輝く月へと向かっていく。
さらに、流れができたのか、台車の上に乗せられた残りの飛翔石も勝手に空へと飛んでいく。
そして、月の明かりに照らされた飛翔石が煌めいた。
「すごいです!」
「見事なもんだな」
月へと向かう煌めきが、星空を縦断していく。
空から流れるのではなく、地上から昇っていく。
天の川の様な光景はどこまでも伸びていく。
「みんな、自分の石に願いを込めて、思い切り投げるのよ」
子供たちが、各々の色を塗った石を投げる。
俺たちも、渡されていた石を空へと投げる。
飛翔石の流れに乗り、白い光が僅かに色を帯びる。
「願いは小さいものだけど、月まで届いて叶うなら、それこそ奇跡って言えるんじゃないかしら」
「……そうだな」
シオンの言葉に頷きながらあたりを見ると、大人たちは目を閉じて黙祷を捧げていた。
それはきっと、街を守るためにダンジョンで戦ったギルマスや冒険者たちにだろう。
「オウカちゃん、何をお願いしたの?」
「えへへ、大切な人とずっと一緒にいられるようにってお願いしました」
対照的に、子供たちはわいわいと騒いでお互いの願いを話し合っている。
「シオンお姉さまは何をお願いされたのですか?」
「もちろん、商人としての成功よ!」
誰でも叶えられるような願いにしろとか言ってなかったっけ?
「ツムギは何にしたの?」
「私もツムギ様のお願い聞いてみたいです!」
「俺か……ゆっくり休めるように」
はぁ? と露骨な顔をしたのはシオンだけだった。
「つまらない男ね」
「ここ最近いろいろあったからな。
冒険者から少し離れてみてもいいかもな」
オウカを買った目的は、昇格試験を受けるためだったし、それも達成された。
金銭面で不安とかもあるが、いくらかのんびりしてもいいかもしれない。
少し考える時間が欲しい。
これからのことについて……。
「ならいい場所があるわよ」
提案してきたのはシオンだった。
「私と一緒に、王都の学院に入りましょ」
「え、やだ」
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