第134話 リセット

「リー、大丈夫か?」


 絆喰らいに食べられたリーに駆け寄り、その小さな頬をぺしぺしと軽く叩いてみる。

 呻くこともなく、リーはパチリと目を開けると、すぐさま俺に向かって膝をつき頭を垂れた。


「この度は様々な無礼をお詫びします。吾が主」

「お、おう?」


 なんだか様子がおかしい。

 もしかして、まだ邪視による影響があるのだろうか。

 以前、魔族との戦いで呼び方の指摘をしている身としては、主呼びは違和感を覚える。


「吾が名はソリーと申します。

 以後お見知りおきを」

「ん? もしかして俺のこと覚えてないのか?」

「申し訳ございません。契約に問題が発生したため、直近の自我を削除致しました。

 それに伴い、自我の持つ記憶も無くなっております」

「それ大丈夫なのか?」

「存在自体には影響を及ぼしませんので、問題自体はありません」


 記憶、どころか自我もリセットされたらしい。

 リーはリーで邪視に対抗したのだろう。結果としてこうなっているが、精霊だし大丈夫……なのかな?


「でも、俺が主だってのは覚えているのか」

「いえ、この度初めての傘下かと思われます」

「傘下? 契約じゃなくて?」


 精霊は一個体としか契約できないはず。だから俺との契約が切れ、邪視とは再契約をした上で記憶が無いなら、俺が主とはならないはずだが。

 以前の契約の時みたいなおでこへのキスだってされていない。


「いや、まてよ」


 俺はステータスを開いた。


◆ツムギ ♂


‐:エレミア・ジェバイド・ドラゴン

  ソ・リー


 あー、こっちか。

 絆喰らいによって謎のリストに追加されたわけだ。

 このリストに追加されたことで俺の傘下に入ったと言いたいのだろうけど……。


「未だわからないんだよな、これ」


 傘下リスト(仮)とでもしておこうか……。


「下僕リスト、ではないでしょうか」


 俺のステータスを覗いたリーが呟く。

 どちらにしても、まともなリストではない。


「リー、俺の首元の数字は?」

「ゼロですが」

「ですよねー」


 お約束を確認したところで。


「さて、目的の石を集めないといけないんだが」


 ドームから外に出ると、陽がちょうど沈み空が黒紅色に染まっていた。

 急いで集めて街へと戻らねばならない。


「そういえば、リーは街の記憶があるのか?」

「最後に契約していた南の街ですね」


 そこは覚えているのか。いや、覚えていてもらわないと無足歩行アプスウィープで戻れないからいいんだけど。

 本当に、俺たちと出会ってからの記憶がないらしい。


「てか、俺の傘下って契約とは違うんだよな……いま大きな身体になれる?」

「最低限の供給しか受けられないので、不可能です」

「…………」


 ドームの中には、絶賛意識のないオウカ。

 隣にいるのは小さくなったリー。


 つまり――


「俺一人で石を集めるのかあああああ!」


 夜は近い。

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