第137話 御伽噺

「というわけで、シオンの護衛として王都に行くぞ」


 接客室から出て、受付でお話していたオウカとシオンに報告する。


「ふっふっふ、あたしにかかればこんなもんよ!」


 シオンが何故がドヤ顔を決めていらっしゃるのだが、パパに泣きついたってことになってるよ君。


「それじゃあ、宿の片づけとか、旅支度とか、いろいろやらなきゃですね!」


 お任せくださいと、オウカが鼻をふんすふんす。元気があってよろしい。


「そっちはオウカとシオンに任せた。

 俺はギルドに行ってくる」


***


「え、精霊と再契約できるのか?」


 ギルド長室でぽかんと口を開けたのは、聖なる弓を司ることおじさんである。


「ああ、現在リーは俺との契約が切れている。つまり今なら街との契約も可能だ」

「契約がなければ、吾が主の力をお借りして実存維持を行うしかありません」


 俺の説明に、机の上に立ったリーが補足を加える。


「ですので、吾が主に負担を掛けないためにも、吾は再度街と契約を行い、守護を務めようと思います」

「そりゃありがたい話だが……じゃあなんで主なんだ?」

「要件はそれだけだ。俺は帰るぞ」


 最後の質問を無視して立ち上がる。

 おじさんには街を発つことも伝えた。ソリーはまたモンスターの入ってこない状態にできるだろうから、上位冒険者が少なくなった現状でも俺が街に残る必要はない。


「待ってくれ。それなら俺も王都に行くぞ」

「はあ? おじさんは街の復興で忙しいだろ?」

「最初はそのつもりだったんだが、やっぱ報告は俺がしたほうがいいってことになってな」


 隣にいた犬のお姉さんがコホンと咳ばらいを一つ。


「ヤコフさんはかつて冒険者として活躍していたころがあったんですよ。

 その時手にしたジョブが弓聖と呼ばれるとても珍しいものなんです。

 御伽噺で魔王を倒した剣聖と並ぶジョブですよ!」

「へぇ」

「反応薄っ!?」


 ステータスは覗いてたしな。珍しい感じなのは名前からお察しだし。


「なので、彼の発言はそれなりに説得力があるというか……魔族なんて御伽噺の存在が実在したことを認めてもらうにはヤコフさんが報告するしかないだろうと」


 現状、この世界では魔族の実在が認知されていない。

 魔族がどういった生き物かが知られているのは御伽噺に魔族が出てくるせいだ。

 しかし、それはあくまで空想上の生物という扱いに過ぎなかった。


 それが実在し、冒険者が殺された。この事実を伝えるためには誰が報告してもいいというわけじゃない。


 御伽噺では人類と魔族と邪視の三大勢力の争い。

 これが本物になろうとしつつある。

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