第138話 無縁な話
ギルド長室を出て受付に行くと、何やら人だかりができていた。
中心にいるのはオウカとマティヴァさんだ。
シオンは優雅にお茶を楽しんでいる。ということは買い物が終わって待っていてくれたのか。
「オウカさん王都に行かれてしまうなんて寂しいです!」
「あはは……お世話になりました」
「僕たちもっと罵って欲しかった……」
「罵った記憶はないですよ!?」
別れを惜しむ言葉が聞こえてくる。もう王都を出る話が広まってるのか。早すぎだろ。
「で、なんでマティヴァさんも囲まれてるんだ?」
「ああ、言ってなかったっけ?」
隣でおじさんが忘れていたと自分の額をペシっと叩く。
「マティヴァ嬢も王都に行くんだよ。
俺と一緒に報告と……あとは王都のギルドに異動、かねえ」
「ほーん」
特に驚くことでもない。
というのも、マティヴァさんは最初王都で受付嬢をしていたのだ。
俺が初めて登録したときも、マティヴァさんにお世話になっている。
「逆に、なんでこっちに来ていたのか不思議だな」
「まあ、ギィクメシュがいたからな。
あの二人は同じ村の出身なんだ」
「なるほど」
それであんなに仲が良かったのか。
じゃあなんで、ギルマスが亡くなってすぐ異動なんてことになるのだろうか。
いや、結構前から決まっていたのかもしれない。ギルドの仕組みについては何も知らん。
「でだ」
おじさんがにやりと笑う。
「新しく受付嬢を務めるのが――彼女だ」
受付の後ろから出てきた。ギルド受付嬢の恰好をした少女。
目元を白い布で隠した猫人族。
「って、クラビーか!」
「はい、ありがたいことに、こちらで働かせていただけることになりました」
クラビーが俺の方に駆け寄ってくると、服装を見せびらかすようにくるりと一回転する。
「なかなか似合ってませんか?」
「まあまあいいんじゃないか?」
「もうちょっと言い方ってものがありませんかね……」
ぷくぅと頬を膨らませる少女。
仕方ないので頭と顎をなでなでしておく。
「ツムギさんと離れ離れになってしまうのは寂しいですけど、クラビーはクラビーなりに頑張ります!」
「おう、まあいつだって戻ってこれるから大丈夫だ」
「なら、ツムギさんが寂しくなったら」
クラビーが顔を俺の耳元に寄せてくる。
「クラビーが――」
「何やってるんですかー!」
オウカがクラビーの腰を掴んで俺から引き剥がした。
「オウカさん邪魔しないでくださいよぉ」
「ツムギ様に変な虫が寄らないようにするのも奴隷である私の仕事なんです!」
「虫じゃないですー猫ですー」
「そういう話じゃありません!」
なにをじゃれあっているんだか……。
耳元で囁かれた、クラビーの言葉は聞こえなかったことにしよう。
「ツムギちゃん」
今度はマティヴァさんが俺のところに来た。
「あっちでもよろしくね」
「こちらこそ。
まあ、ギルドに行けるかは分かりませんけどね」
「そうなの?」
「学院に入る予定なんです」
「学院……」
何を思ったのか、マティヴァさんが少し表情を曇らせた。
なんだろう、マティヴァさんも学院でぼっちだったのかな?
「ねぇ、ツムギちゃん」
「なんですか?」
「ツムギちゃんって結婚とか興味ある?」
マティヴァさんの目線が動く。その先には、目から火花を飛ばしあっているオウカとクラビーがいる。
「いや、結婚とか考えたこともないですけど。
ここらへんっていくつから結婚できるんですか?」
「え? 別にいつでもいいよお。
まあほとんどの人は20までには結婚してるのかなあ」
結構早いんだなあ……。
でも、俺には無縁な話だ。
「もし」
マティヴァさんはゆっくりと口を開き、しかしそのまま数秒黙って、
「うんん、なんでもない」
優しく微笑むのだった。
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