第64話 低級能力

「……誰だ」

『君の言葉に基づけば、アンセロの上であり、あの方の下の存在というべきか』


 不気味な言葉に、思わず眉を顰める。

 こいつ、俺たちの戦いを見ていた?

 どこか……アンセロを使って監視でもしていたのか。

 なんだこいつは。アンセロの上? あの方の下? 中間管理職かよ。

 

『様々な思考を巡らせているとは思うが、私には声としてしか情報が入っていない。残念なことにアンセロの記憶媒体が消されてしまった故』


 俺の思考を読み取ったかのように、低い声が言葉を加える。


『簡単な話だ。我も魔族で、彼を動かしていたというだけ』

「……なんでそんな偉い奴が、わざわざ出てきたんだよ」

『君の質問に答えようと思い至ったまでだ』

「質問? アンセロに問いかけたやつか」

『そうだ。人類が我々に辿り着くことがなくなったために、こうして情報を開示すべきと判断したまで』


 魔族の言っていることがいくつか理解できない。

 この世界の住人でない俺には、そもそもの知識が不足している。


『魔族にもキズナリストがある、と君は言ったが、はっきりと訂正させてもらおう』

「訂正だと?」

『そんな低級能力を所有していると思われたくないのでね』


 人類唯一の希望と言われているキズナリストを低級と言い切るか……。


『これは二つ目の質問にも繋がる。アンセロの首につけた数字はただの番号だ』

「番号……ってまさか」

『そう、ただ魔族の数に合わせた番号。故にステータスの変動はない』


 それはつまり、魔族が最低でもあと11はいることになる。

 多いのか少ないのかはわからない。

 ただ、たった11だとしたら、その数で人類に危機を及ぼせるレベルというのが問題である。

 そして、アンセロはあのステータスでありながら、魔族サイドでは一つの駒に過ぎなかったということ。

 もしアンセロが魔族の中でも最弱なんて言われたら。


『残念だが勝利を喜ぶのには早い。

 アンセロはナンバーの中でも最弱』


 言われた……。

 となると、あんな面倒な奴以上なのがまだ11もいることになるのではないだろうか。


「そんなこと言うために、わざわざ声だけで登場したのかよ」

『数字の意味というものは重要だ。せいぜい人類はキズナリストの数を増やし我々に立ち向かってほしい』

「断る。俺はぼっちなんでね、キズナリストは0でいかせてもらうよ」

『……魔族は0という数字に特にこだわりがあってね。君が0だというなら、死んでもらうまでだ』


 魔族の声がさらに低くなった。

 アンセロが孤独をなんだと文句を言っていたのは、俺のキズナリストが0になっていたからだったのか。


『その声はっきりと覚えておこう。いつか必ず殺す』

「俺も覚えておくぜ。魔族を倒すのが一応の使命なんでね」


 アンセロの肉体が地面に倒れ込む。いなくなったか。


「ツムギ様……」

「とりあえずだい、じょ――」

「ツムギ様!?」


 途端に全身から力が抜けて、意識が、真っ暗に――

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