第84話 できたてダンジョン

「武器による近接戦闘は気配を察知されにくいが危険性が高い。

 逆に、魔法による遠隔戦闘だと察知されやすいが危険性が低い。

 冒険者の基本スタイルはこのどちらかだ」

「そ、そうだったんですね。

 それじゃあ、魔法がほとんど使えないクラビーは近接をしないといけないんですね」

「そうなるな」


 剣だけの世界なら銃が生まれた時点で戦い方は大きく変わるだろうが、いまのところ見かけていない。

 だがこの世界には代わりに魔法がある。そして、各々がメリットとデメリットを抱えている。このバランスを踏まえてパーティーを組めればそれが一番だ。


「それじゃあ、クラビーもいつか、魔法師さんを探さないとですね」

「ただし、この世界は純粋な魔法師が圧倒的に少ない」

「あ、私ギルドで魔法師の募集をたくさん見ました」

「オウカにはギルドでクエスト掲示板を見てもらってるからな。よく目に入っただろう」

「そ、それじゃあ、クラビーはどうすれば……?」

「お前は風魔法が使えるだろ? 魔法師でなくても、一部魔法が使える者なら結構いる。そういう人たちがパーティーで後衛を担当することが多いらしい」


 らしい、というのも俺はパーティーなんぞ入ったことないから詳しい事情は知らない。


「まあ、パーティーなんて考えるのはまだ先だ。

 いまお前がやるべきことはダンジョンの踏破だろ?」

「はい、頑張ります」


 というわけで、目的地に到着。

 なんと今回は、昨日発見されたばかりのできたてダンジョンである。

 ダンジョンは見た目からしてすぐにわかった。

 地下型ではあるらしいが、その入り口があまりにも特徴的なのだ。


「これ、どうやってはいるんですか?」

「ドアノブも見当たりません……ツムギ様?」

「これは横に引くタイプだよ」


 王城には似たような構造の窓があったが、この世界ではあまり普及していないらしい。

 厚い黒色の木の板が二枚。中央が少し重なって、岩穴にはめ込まれている。

 その板戸を開けて中へと入る。


「おいおい……」


 簡潔に言えば――和室が広がっていた。

 畳が敷き詰められた、だだっ広い部屋がそこにはあった。


「これがダンジョンですか」

「前にツムギ様と探索したダンジョンとは、全く違いますね」


 二人にこれをダンジョンだと言い切らせていいのか……。

 どうしてこの世界にこの様式の建物が現れているのか、そこからツッコミたい。

 これ実は元の世界と繋がってるチートな扉だったとか言わないよね?


「とりあえず、中に入るか……」


 警戒を怠らずに中へと入ってみる。

 特に何か起こる様子は――


「ひゃっ!?」


 オウカの悲鳴と同時に、木の打ち付け合う音が響く。

 振り返れば、板戸が閉められていた。

 オウカが引っ張るが開く様子はない。


 閉じ込められた?


「ツムギさん、何かいます!」


 クラビーの声で視覚を正面に戻すと、ひとつの黒い影があちこちを走る。

 そして、畳の上を滑るような音を立てながら止まった。


 全身を黒い布で覆い、目元だけを覗かせた人型のモンスター。


◆シノブモノ

 種族 :オーガ

 レベル:11

 HP :88/88

 MP :110/110

 攻撃力:121

 防御力:143

 敏捷性:495


 アビリティ:シノブスベ



 あ、アイエエ……。

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