第85話 シノブモノ

 見た目とか名前に対して既に忍んでいないとか諸々は無視しよう。


「ほら、クラビー行ってこい」

「クラビーですか!?」

「お前が踏破するんだよ?」


 クラビーは脚をガタガタとさせていた。この子よくいままで冒険者していられたな。


「当たって砕けてこい」

「は、はい〜」


 ツッコミ不在の中で、クラビーがシノブモノに向かって走り出す。


 走って……って女の子走りじゃねーか! 遅い!


「うぐっ」


 呻いたクラビーが、モンスターを目の前に倒れる。

 また躓いたのかと思いきや、よく見れば手足が痙攣している。

 麻痺だ。首元に細い針が刺さっている。まさかの吹き矢である。


「オウカ、クラビーは放置でいい。目の前のモンスターを頼む。」

「分かりました!」


 援護でオウカを向かわせ、俺は異界の眼を発動。部屋全体を見回す。


◆シノブモノ

 種族 :オーガ

 レベル:9

 HP :72/72

 MP :90/90

 攻撃力:99

 防御力:117

 敏捷性:405


 アビリティ:シノブスベ


 いた。何もない天井にステータスだけが浮かび上がった。

 天井裏から攻撃したのか。ちゃんと忍んでいやがった。


 すぐさま、右手の親指と人差し指を突き立てて銃の形にする。

 ステ―タスのある場所を狙って――


「スキル――火炎弾」


 指先に赤い炎の塊が生まれ発射される。

 見事的中。天井を破壊して当たった炎が、モンスターを一瞬で燃やし尽くす。


 火炎弾もドラゴンのスキルの一つだ。たぶん本来は口から吐き出すものだろうけど……。

 口からは嫌だなあと考えながら試してみたところ、手から出ることが判明したので今の形になっている。


「オウカ!」

「倒しました!」


 振り返ると、オウカもダガーでシノブモノを倒していた。

 初めて見るモンスターだったが、レベルが低いおかげですぐ倒せた。

 やはり、できたてのダンジョンだとモンスターのレベルは低いみたいだ。


「あれ? クラビーは?」

「ここです~」


 倒れていたはずのクラビーがいないことに気付くと、上部から声が聞こえた。

 見上げると、クラビーが赤い縄で吊るされていた。


「亀甲縛り……」

「なんですか、あれ……胸」


 オウカの顔が険しくなる。理由は想像しないでおこう。


「た、助けて~」


 クラビーが助けを求めながら右へ左へ全身でもがく。

 天井から吊るされた縄がぶらんぶらんと揺れて――千切れた。

 勢いを持ったクラビーが壁へと飛んでいく。

 ぶつかって落ちてくるかと思いきや、


 ガコン、と壁が回転して奥へとクラビーが消えた。


「どんでん返しだと!? オウカ、追うぞ!」

「は、はい!」


 慌ててオウカと一緒に壁の奥へと入り込む。


 ガコンと音を鳴らして入った先は――崖だった。


「げぇ!?」

「ツムギ様!」


 オウカの伸ばしてきた手を掴むが、すでに互いの足元は浮いている。


「着地にだけ意識しろおおおお!」

「はいいいいいいい!」


 互いの手を固く握りしめて、闇へと落ちていく。

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