第200話 邪視開眼
その姿に、俺は呆然としていた。
「邪視……開眼、だと?」
妖狐は邪視の種族。
学院の図書館で調べた時には、どの文献にも必ず載っていた言葉だ。
俺は、それが何かの勘違いが広まったか、妖狐族を陥れる大きな力でも働いてた過去があるのではないかと思っていた。
なぜなら、俺の奴隷である妖狐は青い瞳ではなかったからだ。
いま俺が見ている少女は、本当にオウカなのだろうか。
「この服装だと動きにくいですね」
青い瞳の少女ははパーカーのチャックを上まであげると、プリーツスカートを千切って脱ぎ捨てる。パーカーが少し大きめだから下着は見えないと判断したのだろう。
確かにあの阿呆はオウカだ。
ならば青い瞳はどういうことか。
「やはり……呪いか」
そう呟いたのは、先ほどみぞおちを喰らって倒れたカイロスだった。
「呪い……」
「貴様のステータスと同じだ。呪いはステータスに出ることはない。
邪視も発現しなければ分からない。
邪視開眼……そうなってから初めて呪われていることが分かる。
だから厄介なんだ」
そうか、邪視は呪いの類と仮定すれば成り立つのか。
「なーんか面白い話してますねえ」
身体が引っ張られるような感覚に襲われる。
ライムサイザーが俺を捕まえていた腕を縮めて、俺を隣につける。四肢は動きを奪われたままだ。
「俺様も混ぜろよ」
「ふざけるな」
「まあいい……そこのお前も、こいつみたいに大人しくしてるんだな」
ライムサイザーが足元を動かす。そこには頭を踏まれた生徒会長が気絶したままだ。
まさか生徒会長がやられると思っていなかった。
前回ライムサイザーと邂逅したときはいい勝負みたいな雰囲気だったから任せたのだが。いまさら後悔しても仕方がない。
「く、いってぇ」
「おじさん! 魔法はまだ使えるか!」
意識を取り戻して立ち上がろうとするおじさんが見え、俺はすぐさま叫ぶ。
「ん、ああ……。え、なんだこれ」
「いいから! そこを動かず、観客席を守ってる魔法もっと強化しろ!」
「え? あ、ああ……」
状況が飲み込めないと言った様子のまま、おじさんが矢を放つ。
おじさんにはいつもまともな説明をしないまま動いてもらっているが、ほんと説明する暇がないのだ。
「ああん? なんで動かないんだ」
ライムサイザーが訝しげな表情を浮かべる。
オウカとベリル、そのどちらも動こうとしない。
互いを睨んでいるだけだ。
「おいおい兄貴ぃ、あんな妖狐族、殺気でも殺せるだろ! なんで動かないんだよ!」
「ん、まあ……」
ベリルは仕方ないと言った様子で鼻から息を吐き出すと、オウカの方へと歩き出した。
「ん、まあ、本来ベリルの前に立つなら、己の弱さで動けない、が――」
ベリルの姿が消える。早すぎる。
地面を砕く音。オウカのいた場所をベリルが爪で抉っていた。
地面。ならばオウカは――。
そう思った時には、青い線が目に入る。オウカの瞳だ。
それが既にベリルの後ろを取っていた。
「かぁっ!」
力んだ声と共にオウカの爪がベリルの背中を襲って、赤い血が吹き出す。
ベリルが目を大きく見開くと眼球だけを動かして後ろを睨んだ。
「ん、まあ、なんで動けるの?」
「竜のくせに威厳がないからじゃないですか?」
オウカの口角が上がった。
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