第199話 大切な人を守る力

 何か手はないのか。このままでは……。

 オウカを見ると、彼女は目を閉じていた。


 怖いのだろうか。

 ライムサイザーの言葉を理解しているのだろうか。

 俺が、なんとかしなくてはならない。

 なのに、身体はライムサイザーに捕えられて動けず、MPだってもう無い。絆喰らいは答えてくれない。

 いまの俺は、元の世界の状態だ。


 何一つ力のない弱者だ。喰われる側だ。


「ツムギ様」


 オウカの声が耳に入ってきた。

 考えているうちに俯いていた。

 顔を上げると、オウカがこちらを見て笑みを浮かべている。


「私、決めました。もう、大丈夫です」


 何を、決めたんだ。

 何が、大丈夫だっていうんだ。

 まさか――


「ふ、ふざけるなよ! 諦めるんじゃねえ!

 俺は言ったぞ、何としてでも生きろって!

 こんな所で、こんな場所で、死を選ぶな!何があっても――」


 何があっても、心を強く持てと?

 何をされても、生き続けろと?


 俺は、何を強要しているんだ。

 残酷じゃないのか? 無責任じゃないのか?

 ただ生きろ生きろと叫ぶだけの主に、誰が応えてくれるというのか。

 こんな状況にした俺の言葉をオウカが受け入れてくれるわけないじゃないか。


「何が……あっても」

「ツムギ様」


 オウカから笑みは消え、冷静な面持ちに変わっていた。


「私は死ぬ気なんてありません。

 諦めるつもりもありません」

「オウカ……」

「なーに言っちゃってるんですかねえこの妖狐は!」


 ライムサイザーが叫び、首を掴んだ手の力を強める。


「うっ」

「オウカ!?」

「強気な少女が墜ちていく姿の見ものじゃないですか!

 ほら、観客よご覧ください! 劣等も劣等の妖狐族が息絶える有様を!」


 観客席の生徒は全員が黙り込んでオウカを見ていた。誰一人として言葉を発しなかった。


「私は!」


 オウカが震えた手で、ライムサイザーの半液状の腕を掴む。


「私は諦めない。

 大切な人を守るために、生きるために」

「はっ!」


 ライムサイザーが鼻で笑う。


「守る? 生きる?

 世界に嫌われ、呪われた種族のお前が?

 寝言は寝て言え!

 それとも、奇跡でも起こすってか!?」


 その言葉に、オウカの口角が微かに上がった。


「そう、これは呪いなんかじゃない。

 大切な人を守る力。

 何もない私に唯一与えられた――奇跡!」


 瞬間、ライムサイザーの腕がはじけ飛ぶ。


「あっ!? なんだ!?」


 腕は修復される。しかし視線は一点に集中していた。

 オウカの降り立った場所。

 そこが青く光っていた。

 オウカの全身に青い気が纏っている。


 肌が感じとる。

 魔力、なのか。


「赤き竜ベリル、前回のお礼をさせていただきますよ」

「ん、まあ、あの時のか」


 ベリルがライムサイザーの前に仁王立ちする。


「ん、まあ、覇者に立ち向かう勇気、それは買おう。

 だが、お前は、ベリルのものにする」

「それこそ、寝言は寝て言えってものですよ」


 恐れなど一切ない声音。

 それを発する少女の姿に、俺は見覚えがない。

 あれが、オウカなのか……?


 後ろで揺らめく四尾はなんだ。

 纏った魔力はなんだ。

 何よりも、どうして瞳が青いんだ!


「邪視開眼。

 もう何も、失わせない」

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