第282話 要注意
***
「ぉぉ……何を、した」
脳を揺すられたような感覚に襲われふらつきながらも俺は女を睨みつけるが、相手も何故が膝をついて肩で息をしていた。
自爆? であるにしろ、俺も何かされたのは確実だ。
「レイミア様、大丈夫ですか!?
おい、その男を捕らえるぞ!」
近くにいた門番が異常事態に気づいて駆け寄ってきた。何故か女の方を助けている。
俺が出ていった時の門番とは違うから丁度交代したあとか。俺も王城の関係者なんだけど。というか、捕らえるべきは女の方で……。
「あなたたち、何やっているの!」
門の奥から声が聞こえ、その場にいた全員が振り返る。
声の主はヒヨリだった。
「ツムギくん、大丈夫!?
レイミア生徒会長、何しているんですか」
「元、だがね。なに、彼に少し用があったのさ」
レイミアと呼ばれた女は立ち上がり息を整える。
あれが学院の生徒会長なのか。元らしいが。
「それに彼とは婚約関係にある、多少激しさがあってもいいだろう?」
「ふざけないでください。婚約とか、そんなのあるわけないじゃないですか。
ね、ツムギくん?」
「あ、ああ。ないない」
俺は慌てて首を横に振る。ちょっとヒヨリさん目が怖いですよ?
「……そうか」
元生徒会長は悲しげな口調で呟くと馬車に方へと戻っていく。
「ああそうだ、ひとつ伝えておきたいことがある」
「まだなにかあるんですか」
「なに、大切なことだ。
――この王都は既に魔族の手中かもしれない」
「……そうやって、ツムギくんの気を取ろうっていうんですか。
光本くんだってそうして」
「彼はケリュネイア家の問題だろう。
私は、ツムギくんにしか興味ないよ」
そう言い残して、元生徒会長は去っていった。
「ツムギくん、あんな人の、貴族の言葉なんて信じなくていいから。
権力や財を与えるから身内になれって言ってくるのよ。
光本くんも半ば無理やり、第一位貴族とかいうケリュネイア家の婿養子にさせられて……」
あいつ貴族になってたのかよ。やべえなあとで消されないかな俺。
「そうだったのか。わかった、気をつけるよ」
「とりあえず中に入ろ。宿はどうしたの?」
「ああ、それがさ――」
ヒヨリの伸ばしてきてくれた手を握って、俺は王城へと戻った。
***
「レイミア様、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない……とも言えないな」
馬車の中で、疲弊した様子で俯くレイミアをオウカが心配そうに見つめていた。
「オウカくんからも見えたかな、あの女」
「はい、私がツムギ様に会いに行った時もいました」
「そうか……彼女は要注意だ」
「と、いうと?」
「私が婚約の話を持ち出した時、彼女はそんなことあるはずないと言った。
普通、事実かどうか確認するならまずは当事者に問うだろう。
しかし彼女は否定し、その確認をツムギくんに行った、まるでそう認識させるかのように」
「それは……ツムギ様の記憶喪失と、あの人が関わっているってことですか?」
「だろうね。だがこれで彼のことは気にしなくて良くなった」
「え、ど、どうしてですか!?
危険な人が近くにいるなら、早くツムギ様を助けないと」
「危険って言うのは、誰にとっての危険だい?」
「それは……」
「そうだ、彼女の存在を危険と感じているのは私たちだ。
逆に言えば、ツムギくんにはなんの危険もない。
王城なら安全だろうし、彼の仲間である他の勇者候補もいる。
それに、少しくらい女遊びもしておいたほうが甲斐性もつくというものさ」
「そんなの……嫌です!」
オウカの声が怒りの篭った声になり、レイミアは少しばかり驚いて顔を上げる。
目の前の妖狐がずっとこちらを、冷たく透き通るような赤い目で見ていた。
「オウカくんは結構独占欲が強いのかな?」
「それで構いません。ツムギ様がいろんな女性に手を出すというのも、ちょっと想像できません」
「はは、それは言えているな。
なら、何か策はあるのかい?」
レイミアの問いに、オウカはその答えを口にするか躊躇うようになんどか息をする。
そして、
「時間をください……奥の手を、使います」
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