第283話 演じている側
***
「ふぅ、ここのご飯はやっぱおいしいな」
王城へと戻ってきた俺は個室を用意してもらい、その部屋で夕食も頂いた。
もちろん一人だよ? 他のみんなは食堂で仲良く食べています。
ぼっちは一人で食べないと死んじゃう病気なんだ。だからみんなとは食べられないんだよ、ごめんな。
食べ終わると、すぐに近くにいたメイドたちが食器を片付けてそそくさと退出していく。よそよそしいというか、怖がられている気がしなくもないけどまあいいか。
メイドが扉を開けて出ていくのと交代に、両木が扉を軽くノックしてから入ってきた。
「協力しないって言った後だとか、皆怖がるかもしれないからって、一人で食べさせてるってヒヨリが言ってたけど、ほんとだったんだ」
心の言い訳がいとも容易く崩されてしまった。そうですよ強制的にぼっち飯ですよ。
まあこのほうが気楽だし慣れてるからいいけど。
「何か用か?」
「少しあなたに話があるの」
両木は部屋の隅においてあった椅子を持ってくると、テーブルを挟んで俺の向かい側に座った。
揺れるグレーのマフラーが視界に入る。
「そういえば、なんでマフラーなんかつけてるんだ?」
「これ? 小学生のころからつけてるけど、覚えて……るわけないか」
「……あれ、小学生のころから一緒だっけ?」
「ずっと同じクラスだけど……まさか高校まで被るとも思ってなかったけどね」
小中は地域によって集められるが、高校は各々進みたい学校を選ぶから、同じ地域の奴が同じ高校になるとしても数名。さらにクラスも一緒だったというとどんな確立だ。
「ヒヨリも一緒だったのは……覚えてないね」
「まじか……」
頭の中で昔のことを巡らせるが、そもそも小中学生時代の学生生活とか覚えてねえ!
「このマフラーは……ただのキャラ付け。
紡車と同じ」
「……俺と同じ、キャラ付け?」
両木の言葉を呟き咀嚼しながら、その意味を探る。
「俺は別に、何もしてないが?」
「そう? いつからだったかな……独りを好むようになったのはキャラ付けじゃないの?」
心臓を何かに掴まれたような感覚に襲われた。
俺の変化になんて気づいてる奴はいないと思っていたからだ。
「以前は人の輪に溶け込む様な、当たり障りのない男子って感じだった。
聞かれれば笑顔で答えるし、一緒に遊びもするし。
でもいつのまにか、スイッチでも切れたかのように、学校ではずっと呆然とした様子で空を見てた。
そっとして置いてくださいって言いたげに、気持ち悪いくらいに」
「……やけに俺のこと見てくれていたんだな」
「私は少しだけ親近感があった。紡車は演じている側だと思っていたから。
だけど、途中で離脱した。それが少しだけ許せない……それだけ」
しばらく無言が続き、俺と両木は互いの心を探り合うように見つめ合っていた。
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