第24話 笑い声
「誠に申し訳ございませんでした!」
翌朝、王城の中庭に連れてこられ、そこでエル王女に頭を下げられた。
「あの子は頭に血がのぼると周りが見えなくなってしまって……いえ、だからといってツムギ様に怪我をさせてしまったのは事実。しかしながら、あの子も悪気があったわけではなく、ただ国のために真っすぐで。どうかご容赦を」
「もうそれはいいですから。頭をあげてください」
彼女が謝っているのは、先日のローブ男のことだ。代表して王女が謝るってのもなんかおかしい気がするけど。
昨日は俺が目覚めた後も、城内は勇者候補のおもてなしでバタバタしていたとか。 エル王女も駆け回っていたおかげで、俺にところに来たのが今になってしまったらしい。
だからといって、周囲の騎士に睨まれながら謝られても胃が痛くなるだけである。
「本当によろしいのですか?」
「自分が特殊なのもわかりましたし、それが怪しまれるのも仕方のないことですから。
むしろ、危険を察知して動いた彼を誉めてあげてください」
「ツムギ様は心のお広い方なのですね! ありがとうございます」
とりあえず、あの地下事件は終わりにしてもらう。まじで騎士たちの目が怖い。エル王女愛されすぎだろ。
「それで、俺はクラスメイトと違う訓練を受けると伺ったのですか」
「はい。それについては騎士団長様から詳しく説明していただきます」
歩み寄ってきたのは、銀色の髪をオールバックにした筋肉質な男。
年齢的には50代くらいに見える皺の数。顎に切り傷があり、灰色の瞳が鋭い視線でこちらを見る。
全身は白いフルプレートアーマーが装備されており、それだけでも手練れの騎士だと想像できる。
「あなたがツムギ殿ですか」
低くもさわやかな声が騎士団長から発せられた。
「初めまして。我が名はバルバット・レートロード。王国直属騎士団団長を務めております」
「ご丁寧に、こちらこそよろしくお願いします」
「と、言いましても、我輩が稽古をつけるわけではないのだがな」
ガハハと団長の大きな笑い声が響く。
こっちが素か。
「えっと……それはどういう」
「騎士団長様、詳しくお願いいたします」
「そういえば、姫様にも説明しておりませんでしたな。
いや、単純な話。大人数の勇者候補に稽古をつけるのはなかなか難しい。故に我輩が直接指導するというわけです」
「騎士団長様は他の皆様につくというわけですね」
「いかにも。ツムギ殿には申し訳ないが、キズナリストが使えない以上、基礎能力を高めていくしかあるまい。
他の騎士をつけるので、そいつらの指示に従って、新米と一緒に基礎訓練に励んでくだされ」
「はぁ……」
ぼっちはステータスアップがないから、レベルを上げようってわけだ。
「それじゃあ、あとは頼んだぞ」
「はっ!」
騎士団長が後ろに声をかけると、整列していた3人の若い騎士が敬礼をする。
「それでは、我輩も他の勇者候補のとこへ向かいます。姫様の一緒に来て下され」
「私もですか?」
「姫様が声をかければ、皆も士気が高まるでありましょう」
「そうですか、わかりました」
高まるのはここの国民だけではなかろうか。少なくとも男性陣と飛野は喜ぶか。
俺と三人の騎士を残し、二人はクラスメイトたちのいる場所へと移動していった。
「さて、それでは始めましょうか」
眼鏡をかけた騎士がそう言うと同時に、
――腹部に衝撃が走る。
「がはっ」
何が起きたかわからず、視界が空を通過し地面へと倒れ込んだ。
「く〜、決まった〜!」
もうひとりの騎士が楽しげな声で言う。
なんだ? 殴られた? 蹴られた?
どっちにしろ、いま俺は騎士に攻撃されたのか。
「ほら立ち上がりなさい、ユーシャコーホサマ」
「うっ……」
前髪を引っ張られ、無理矢理体を起こされる。
「訓練の時間です。楽しくやりましょう」
後ろの騎士がケタケタと笑う。
――笑い声だけが聞こえてくる。
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