第106話 回復薬

 転がっていったクラビーの元に駆け寄ると、太腿に大きな穴が開いていた。


「うぇえ、えうげえ、ツムギさんん……」

「大丈夫だ。魔法の傷ならHPに反映されている間に直せる」


 痛みに顔を歪めるクラビーへと声を掛けながら、俺はアイテムボックスの回復薬ポーションを取り出し、クラビーの太腿に掛けた。


 傷口から煙がもうもうとし始めた――瞬間。


「ああああぎゃやああああああああ!!!!!!????

 痛い痛い痛いいたあああああいいいあったあったあああああああああああああああ!!!!?????」


 クラビーが発狂にも近いダミ声を上げて暴れだした。


「オウカ、押さえろ! おちおち治療もできねえ」

「は、はいっ!」


 オウカがクラビーの上に跨って動きを抑える。

 それでも、クラビーは苦しそうに声を上げ続けた。

 しかし、傷口は徐々に塞がっている。


「傷も大きいし多少沁みるのは分かるが、いくらなんでも暴れすぎだ!」


 俺も片手でクラビーの脚を抑えながら回復薬をかけ続ける。


「ぼっち……お前」

「えげつないですね」

「そんなこと言う暇あったら手伝えよ!」


 後ろから引き気味の声が聞こえてきたが、確かに傍から見たら少女を襲ってる不審者だろう。

 だが、ここはダンジョンでクラビーは怪我をしている。

 動けないままでは困る。


 ついに傷がすべて塞がったところで、俺とオウカはクラビーから離れる。

 クラビーは半分白目をむいて唇を痙攣させていた。


「そこまで痛かったのか……?」

「痛いどころじゃないですよ!」


 クラビーが起き上がった。


「皮膚が爛れたかと思いましたよ!? 何やってくれてるんですか!!」

「何って……お前の皮膚が爛れるどころか穴が開いてたらから、回復薬を使っただけだが……」

「あのなあ、ぼっちよ」


 おじさんが大きなため息を吐きながら俺の肩に手を乗せた。


「回復薬は効果が抜群な代わりに、死ぬレベルの痛みが伴うんだ。

 普通は少量を布につけて傷を撫でるようにして使うんだよ。それでも痛いけどな」

「え」

「普通は原液掛けるとか無茶なことしないんだわ。

 だから回復魔法は貴重で、回復魔法師は教会が囲っているにも関わらず、みんな大金払って雇うんだぞ?」


 教会が回復魔法持ちを囲っているのは知っている。その理由が回復魔法が貴重だということもだ。

 しかし、回復薬がそこまで痛みを伴うなんて聞いていない。


「ツムギ様、普通に回復薬を身体にかけてましたよね?」


 オウカが首を傾げる。

 おじさんとお姉さんの口元が引き攣っていた。


 そこまで痛みを感じた覚えはなかったが……以後はオウカの回復魔法に頼るか。

 と言っても、回復魔法持ちがバレるのも後で何か言われそうだし、いまは無理か。


「ま、まあそれはいいとして……さっきの攻撃……」


 おじさんが考え込む様な表情を見せて、そして確信を得たかのように頷いた。


「さっきのは水魔法の一つで、たぶんギルマスの後ろにいた冒険者のもんだ」


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