第105話 弩
暗くなった視界。
一瞬だが意識が朦朧とした。
しかし、なんとか倒れずには済んだようだ。
「ここは」
視界が暗闇に慣れるよりも先に、誰かが火球を発動させて空間に光が戻る。
発動させたのは憲兵科の犬耳のお姉さんだった。
「大丈夫ですかみなさん」
周辺を見るに、特段怪我をしている人はいないみたいだ。
現在いるのは、俺とオウカとクラビー。それからおじさんとお姉さん。
「周辺にいた人たちまとめて巻き込まれたか」
「どうやら本当にダンジョンのようだな」
すでに立ち上がっていたおじさんが、土壁を叩く。すると、水面に石を落とした時のような波紋が壁に広がっていった。
「なーんか魔法が掛かってるみたいだな」
「ぶよぶよしてますよツムギ様!」
おじさんが警戒すべき発言をしたのにも関わらず、オウカは壁を何度も突いて遊んでいる。何も起きないあたり、人体に害が及ぶという感じではなさそうだ。
あの双子魔族がダンジョンを呼び出したのだろうか。そんなことが可能なのか?
ダンジョンって自然に生まれてくるものだとばかり思っていたが。
もしかすると、魔族側にはダンジョンを生むアビリティとかがあるのかもしれない。こんな世界だし、ないほうがおかしいと言えばおかしいんだけどね。
自分でも壁を触ってみるが、何か薄い膜が張ったような状態で、オウカの言う通りぶよぶよしている。
土にまで指先が達していないような感触。壁を守っているようにさえ思える。
「単純に壁が壊せないんじゃないか?
最初の塔も壊せないから放置しているとか聞いたが」
「そうだな……試してみるか」
おじさんが拳を上げると手の中が光だし、透き通った緑色の
あれがおじさんのアビリティだろう。
おじさんが矢のない弩を壁に向けると、そのまま引き金を引く。
すると、線状の光りが突如として弩から壁に向かって飛んでいった。
なにあのお手軽アビリティ。強そう。
光が壁にぶつかった――かと思いきや。
「……消えた?」
そういうのが正しいかはわからない。
しかし、確かに光は壁の中に吸い込まれるようにして消えていったのだ。
「人間には触れられず、魔法は吸収する……のか?」
「ツムギ様、それって……」
「閉じ込められたな」
「待ってください皆さん! 抜け出せる可能性があるかもしれません!」
半ば絶望的な気分でいた俺たちに対して、いつの間にか遠くにいたお姉さんがパタパタと大きなたれ耳をはためかせる。
隣には火球。それが照らしていたのは一つの穴――道だった。
「この先に進めば何かあるかも知れません」
「つまり、冒険者らしく冒険しろってことか」
おじさんがにやりと笑う。
いや、おじさん冒険者じゃなくて騎士団関係者なんじゃないの?
――と、
お姉さんの横を何かが通り過ぎた。
火球に当たったそれは明かりを消し、なおもこちらに迫ってくる。
「みんな避けろ!」
全員が慌てて左右に散らばる。
いや、全員じゃない。
クラビーがまだ地面に倒れたままじゃねーか!?
「クラビーさーん!」
オウカの叫びも虚しく、飛んできた何かが見事クラビーに激突し、悲鳴と猫耳少女が宙を舞ったのであった。
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