第104話 時間稼ぎ
「魔族、か」
その声は双子の後ろから聞こえた。
「よかったよ。ガキがふざけて急襲の真似ごとをしてたらどうしよかとおもったぜ」
歩いてきたのは、ギルマス。
その後ろを数人の冒険者がついてきていた。
「お前たちが、守衛を殺したんだな?」
「門のところにいたお兄さんですか?
お金がないと通れないというので、代わりに身体へとお支払いしただけですのよ?」
「それが、守衛所の中を真っ赤に染めた理由かよ」
ギルマスが双子を睨みつける。
その光景は俺が見たものと似たようなものだったのだろう。
身体が破裂して、内部が飛び散った守衛所。
「ギルドマスターの権限により、そこの魔族二人を討伐対象として認める。
全員、構えろ」
冒険者たちが、各々の武器を構える。
「悪かったなツムギ」
ギルマスが俺の方を向いた。
「お前の言葉は本当だったみたいだ。
魔族はいた。認めるよ。
そして、一緒に闘ってくれ」
「……了解」
俺は後方へと下がって、魔法を放つ態勢を整える。
「ツムギ様!」
「ツムギさん!」
後ろから声がして振り向けば、オウカとクラビーが走ってきていた。二人が息を荒らげながら俺の元に寄ってくる。
「オウカと一緒に逃げたんじゃなかったのか」
「その予定だったんですが、オウカさんに事情を伝えたら、ツムギさんのところに行くって走り出しちゃって」
「お店に全然人がいないと思ったら、こんなことになっていたんですね」
オウカも俺とギルド長室にいたから、おじさんの避難命令が聞こえてなかったのか。
「ぞろぞろと増えましたわねえ」
「暑苦しいですわ」
双子は互いの手を絡ませる。
「舞台として相応しくないですわ」
「分けたほうがいいですわね」
またも、二人は唇を重ねて舌を絡ませ合う。
「全員、警戒しろ! 血の花火になりたくなきゃ奴らの目を見るな!」
おじさんが声を張り上げたことで、全員が双子から視線を外す。
しかし、俺は双子を見ていた。
『
周りに声をかけるために一瞬目を逸らしたが、それだけで効果が切れるアビリティとは思えない。現に途中からみていたゴーレムだって破裂している。
ならば、ラベイカが言及していた『魔法に対する防御力』
ステータスの防御力を指しているなら、いまの俺の防御力は167550。口にすると頭悪そうな数字だが、ドラゴンのものだから仕方ない。
ラベイカの攻撃力6660との差は歴然。
これが正しければ、双子のアビリティは俺に効かない。
――ぶちぶちと、互いの舌を噛み千切る音。
唇が離れると、周辺には赤い血がべっとりと着いていた。
人形のように綺麗な顔のせいもあって、その姿は化け物と呼んで相違ない。
「やっときましたわね」
「時間稼ぎも大変ですわね」
時間稼ぎ? 何のことだ。
と、そこへ突然地面が大きな音を立てて揺れ始めた。
「なんだ!?」
「地震!?」
何人かの冒険者が声を上げる。
双子の目的はアビリティの発動ではなく、こっちなのか!?
「それではみなさん」
「楽しみましょうか」
ラベイカとクラヴィアが両手を握り合ってくるくると回る。
そして手を開き、遠心力によって二人の距離が離れた。
――瞬間、二人を遮るように壁が地面から生えた。
違う。
「これは――ダンジョン!?」
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