第55話 違和感
オウカとの話し合いが終わり、スカルヘッドが歩いてきた方を重点的に捜索することとなった。
月もだいぶ傾き、朝が近づいている。できれば他の冒険者が動き出すまでには見つけたい。そうすれば、朝のうちに探索の募集がかけられる。
夜の森ではオウカの夜目と嗅覚が頼りだ。
「ご主人様、奥の方で他とは違う臭いを微かに感じます」
「スカルヘッドはダンジョンと森を行き来していた可能性が高いからな。こっちの方にあると考えるのが妥当だろう。
ところでだ、オウカ」
「なんですか?」
「ご主人様ってのはどうなんだ?」
「えーっと、旦那様、のほうがいいですか?」
オウカが両手の指先を合わせて恥ずかしそうに頬を赤らめる。
ふむ、旦那様という呼ばれ方も悪くないが、どちらかといえばメイドが言いそうな感じだ。オウカは奴隷だしってそういう話じゃない。
「じゃなくて、仲間になったんだからご主人様とか敬語とかいらないんだぞ?
言葉は崩したっていいし、俺のことは普通にツムギでいいんだよ」
「ツムギ……様」
「様って……まあ、いいか」
名前を呼ばれて、不覚にもドキっとしてしまった。
こんなテンプレな言葉しか出てこないもんだな、こういう時のドキって。
「敬語は、なんか慣れちゃったというか、気に入っちゃったというか」
「まあ、好きなようにしてくれ……」
「はい! 進みましょう、ツムギ様!」
オウカの奴隷レベルが上がったような気がする。本人がそれでいいというなら、俺が無理に変えさせる必要もないか。
べ、別に二人きりの時だけ喋り方が変わるのがいいなとか、そんなこと思ってなかったんだからね。
さらに歩みを進めていくと、オウカの鼻がピクピクと動く。
「また、血の匂いですね」
「死体か?」
「いえ、腐敗臭とかは特にしないのですが……にしても遠いような、小さいような」
「んー、地下型だから、臭いがあまり上ってきていないのかもな」
「あ、それですね! さすがツムギ様です!」
しかし、臭いがするということは入口があるということだ。
案の定、しばらく歩き続けると、それを発見した。
「ご丁寧に、入りやすくしてあるな」
人よりも二回りは大きそうな岩。
その裏側の地面に穴が隠されており、土を掘った形で階段ができていた。
まるで入って来いと誘っているかのようだ。
「……」
「オウカ?」
オウカが黙り込んで穴をじっと見つめていた。
その額から汗が滲みでている。
「なにか、ヤバイ臭いがするのか?」
「い、いえ、臭いは血とか土だけなんですけど……」
オウカが黙り込む。
「何かあるなら、俺だけが入ってくるが」
「い、いえ、行きます」
そう答えるが、その表情は明らかに無理している様子だ。
「大丈夫です、この違和感を突き止めたいんです」
「……わかった」
オウカが掴んだ違和感がなにかは分からない。
ただ、彼女に何かが起きた時は、俺が全力で守ろう。
二人でダンジョンへと入っていく。
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