双子の魔族(南の街 ソリー)
第97話 川の字
重い。
身体が動かない。
今は何時だろうか。
陽の眩しさはない。
これは、金縛り?
いや、腕の感覚はある。
何かがくっついている。
「……おい」
「おはようございます。ツムギ」
天井を見ていた視線を横にずらすと、そこにはリーがいた。
小さいサイズではない。最初に会った時の17歳くらいのサイズ。
俺と大差ない身長が、俺の腕にしがみついているのだ。重くないわけがない。
「なんでお前がここにいるんだ」
「汝がこの宿に泊まっていいと言いました」
「一緒に寝ると言った記憶はないな」
もう片方の腕も動かない。
そこにはお察しの通り、オウカがしがみつて気持ちよさそうに寝ていた。
「このベッドな……一人用なんだよ」
「存じております」
「オウカは小さいからまだ余裕があったんだよ」
「存じております」
「リーが入ると狭いんだよ!」
「存じております」
小さなベッドの上に三人で川の字である。
二人が無意識に(リーは意識的にだだろうが)落ちまいと俺の腕をがっちりと掴んでいるせいで動けないのだ。
ついでに言えば痛い。腕めっちゃ痛い! 腕がぎちぎち音を鳴らしている。
「いいから二人とも起きやがれッ!」
腕と腹に力を込めて、二人を巻き込みながら自身の身体を起こす。
起きていたリーは俺の腕にしがみついたままだが、寝ていたオウカはベッドの外側へとコロコロ転がっていった。
「ふぇあ?」
「起きろオウカ。ギルドに行くぞ」
寝ぼけたオウカに声をかけて、共用の洗面台へ向かおうと立ち上がる。
「……リーはいつまでしがみついてるんだ!」
尚もくっついていたリーを引き剥がして床に転がした。
***
昨晩はクラビーと別れた後、リーをどうするかオウカと話し合いながら宿へと向かった。
まあ、選択肢なんてあってないようなもので、結局リーを俺たちの宿に泊めることになったのだが……。
「宿を変えるか」
ギルドへと向かう道を歩きながら、そんな言葉を漏らしてしまう。
「お引越しですかツムギ様?」
「お引越しってほどでもないんだけど、まあ何か月も同じ宿にいれば、家みたいな感覚にもなってくるな」
いまの宿は、俺がこの街についてからずっと使っている場所である。
マティヴァさんに紹介された物件だったな。ギルドから遠いが、街の中でも静かな場所に建っていて泊っている人も少ない。いま思えば、ここに来た頃の俺を思って選んでくれたのだろう。
街に来た頃は目が死んでたからな。いまも死んでるけど。
「どうせなら、ギルドに近い場所がいいですよね!」
オウカはそういうが、簡単にはいかない。
そもそも奴隷が一緒の部屋で泊れる宿というものが少ない。それがギルドの近くならなおさらだ。
普通であれば奴隷は一つの部屋にまとめられて泊めさせられる。
知らん他人の奴隷がいる場所にオウカを突っ込むのは可哀想だ。
「マティヴァさんに相談してみるか……」
そんなわけでギルドに到着。
本日の目的は、保護したリーをどうするかギルマスとの相談。
それと、新たな宿探しかな。
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