第202話 輝煌色彩

「見たことありますね、それ」

「ん? まあ、そうだったか。

 輝煌色彩ベアルジオは他が触れることを許さない分身。

 ベリルが許さない限り、お前は一切の干渉ができない」


 ベリルのアビリティを見たことがあるのか?

 だとすれば、スラム街での一戦の時だろうか。

 あの時オウカが戦えたのは――まさか、隠していたのはこれか!

 俺が知れば……必ず止めた。二度と使うなと言っただろう。

 あいつ、最初からベリルと再戦する気だったんだ。


「ん、まあ、知っていたとして、どうにか、できるか?」


 4体のベリルが一斉に飛びかかってくる。

 オウカは思い切り地を蹴り宙へ浮かぶ。

 

「アビリティ――燐火リンカ!」


 オウカを囲うようにいくつかの青い火の玉が現れ、それはまるでネズミのように不規則な動きをしながらベリルたちに襲いかかる。

 ベリルが目の前に迫ってきた火の玉を腕で消し去ろうとするが、まるで意志を持つかのように腕を避けてベリルの皮膚を焼いた。


「もういっ――!?」


 オウカが二回目を発動しようとする。しかし、彼女が表情を歪めて言葉を止めると同時に、火種を失ったように魔法は消える。

 その瞬間をベリルは見逃していなかった。

 奴は既にオウカの脚を掴んでいた。

 そのまま投げ飛ばされ、オウカの身体が会場に張られたおじさんの魔法にぶつかる。


「ぐぅっ」


 おじさんの魔法は壊れない。

 オウカは呻き声を上げて地面へと落ちて――

 ベリルがそれを許さなかった。

 一体のベリルがオウカの腹部に拳をねじ込む。

 オウカが浮かび上がった所をもう一体のベリルが蹴り飛ばす。

 飛ばされた先にいる三体目のベリル、そして最初にオウカを殴ったベリルが同時に火炎弾を放った。


「――ッ!?」


 空中のオウカは避けることが出来ず直撃を喰らい、地面を転がっていく。


「ま、まだ……」


 膝をついて顔をあげるが、パーカーは所々裂け、その姿は痛々しさで思わず目を背けたくなる。


「もういい、オウカ、逃げてくれ」

「嫌です」

「こいつらの目的はお前なんだ!

 俺はこの世界のことも妖狐族のことも齧ったくらいにしか分かんないが、それでもお前が魔族に捕まったら、何かがまずいってことぐらい察しがつくんだよ!」

「嫌です!」

「俺たちは俺たちで何とかする! お前が、お前だけがダメなんだ。

 俺はお前を……失いたくない」

「……」


 オウカが目を見開き、驚いた様子で俺を見た。

 俺の言葉に何を思ったのか。

 その姿が炎の中に消える。ベリルが巨大な火炎弾を放っていた。


「ベリルぅぅううう!!!」

「ん、まあ、落ちたな、下等生物」


 ベリルが俺を一瞥する。その視線はひどく冷たいものだった。

 そして髪を掻き上げて、燃え続ける火に近づき、その中へ腕を入れる。


「ん、まあ、死ななければ、使える」


 火の中から、肌が焼けて赤くなったオウカが首を掴まれて引きずり出された。


「……か」

「ん?」

「か、いふく、まほう」


 オウカの全身を緑色の魔力が包む。

 皮膚とパーカーが元に戻っていく。


「ん、まあ、恥じらうための浄めは、合格だな」

「……ふざ、けないでください」


 オウカが右手を上げ、ベリルの腕を掴む。


「ツムギ様、私は嬉しいんですよ」


 視線だけがこちらに向けられる。


「私は奴隷で、何の力もなくて。与えられてばっかで、守られてばっかで。

 だから強くなりたかった。隣にいたかった。守れる強さが欲しかった。

 だから言ったんです、これは奇跡だって」

「オウカ……」


 そうじゃない。

 お前はそんなこと考えなくていい。

 お前は俺の奴隷だ。

 お前は俺のものだ。


「お前は、俺の命だ……だから、俺が守るって」

「ツムギ様も、私の守るべき大切な命ですよ」


 だから、とオウカは手の力を込めていく。

 目は充血し、赤い涙が流れていく。


「ツムギ様は失いたくないとおっしゃってくれました。

 すごく、すごく嬉しかったです。

 でも、私は思うんです。ちょっとくらい、失ってもいいじゃないですか。

 大切な人を、大好きな人を守れるなら。

 何か欠けても、守ったもので埋められますよ」


 オウカは、微かに笑みを浮かべていた。

 

「もう、一つ」


 尾が、七つになる。

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