第203話 七尾

 骨の砕ける鈍い音がした。

 オウカの首を掴んでいたベリルの腕がへし折られたのだ。


 ベリルが手を離して、オウカは後ろに下がり距離をとる。


「触れた、と、いうことは、本物、ですね」


 肩で息をしながら、途切れ途切れに言葉をつなぐ。

 今まで首を占められていたせいか、それとも七尾になった影響か。

 後者だろう。その表情、瞳、脂汗からして、傍から見ても身体に何かしら負担がかかっているのがわかる。


 それなのに、どうして戦う。

 俺は失うのが怖い。

 何も失いたくない。

 だけどオウカは違った。

 何かを失ったとしても、それ以上のものを手にしようと。

 無謀だと思う。無茶だと思う。

 だけど、それは俺にないものだ。


 オウカ、お前は十分、俺の隣に立てる存在だよ。


「ラァッ!」


 オウカの姿が消え、一瞬にしてベリルの眼前に現れる。

 反応の遅れたベリルは、いつの間にかオウカが拾い上げていたダガーを腕に食らう。


「ッダァ!」


 オウカが力一杯にダガーを押し込み、ベリルの片腕が宙を舞った。


「首ィ!」


 オウカの空いた手がベリルの首を掴む。


「ん!」


 ベリルの全身が赤い炎に包まれる。

 危険を察知したのか、オウカがすぐに離れた。

 残りのベリルも炎に包まれ、そして消える。

 残ったオリジナルらしきベリルは腕が再生していた。


「ん、まあ、面白い」

「余裕、ですね。多少増えた、ところで、もう、あなたには、負け、ない」


 オウカの呼吸が荒い。

 なのにベリルは今もすました顔をしている。

 ダメージは入っている。経験の差だろうか。


「ん、まあ、下等生物が、喚くな」


 ベリルがオウカを睨んだ。

 こちらの背筋まで凍る。

 竜威ではない、本能の奥から出された殺気が空気を揺らす。


 人の形をしていようとも、あれは間違いなく竜なのだ。


「ん、まあ、そこまでいうなら、抑え切ってみろ」


 ベリルが増える。

 一体や二体ではない。

 何十という数がオウカを囲った。


 オウカが息を吐く。

 大きく、限界まで吐いて。

 そして、目を細める。

 獣が、獲物を狩る目だ。

 普段のオウカからは想像もできない表情だ。


「ん、まあ、いけ」


 ベリルが一斉にオウカを襲う。

 ――が、


「ん?」


 内の一体が宙を舞った。

 もう一体、さらにもう一体と。

 何かを受けて、吹き飛ばされ、そして空中で消える。


 ベリルのアビリティは触れられないと言っていた。

 なら、なにが起きている。


「なるほど、大量の魔力でなら、干渉して触れられるんですね。

 アビリティも魔法。魔力同士なら干渉する。

 分かれば簡単じゃないですか」


 視界に入ったオウカが何かを握っていた。

 それを振るうと、ベリルがさらに一体吹き飛ぶ。


 あれは――刀だ。

 青く光る魔力の帯びた......

 いや、違う。


 刀身も魔力そのものだ。

 魔力で出来た刀だと!?


「全員、斬り捨ててあげますよ」


 オウカが青い刀を構える。


「魔剣妖刀――桜花オウカ、とでも名付けましょうか!」

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