第73話 オウカさん

 翌日、クエスト結果を報告しに二人でギルドへと来た。

 中に入った途端、大勢の冒険者の視線がこちらに集まった。

 なんだなんだと思っているうちに、冒険者たちが詰め寄ってくる。


「お、オウカさん」

「ひゃい!?」


 数人の中にいた若い冒険者が声を発する。

 オウカに用事があるらしい。

 自分がご指名だとは思っていなかったのか、頭巾の中のオウカも変な声を上げた。


「ぼ、ボク達とパーティを組みませんか?」

「え、無理です」


 即答したオウカが怯えた様子で俺の後ろへと隠れる。


「い、一日だけでもいいんです! どうかそのお力を貸してください!」


 なかなか引かない冒険者。てか俺は無視かよ。

 その男が手を伸ばしオウカの腕を掴もうとしてきたので――


「やめてください気持ち悪いです!」


 俺が止める前に、オウカが自ら振り払った。

 そこは俺の役目だろうに……このまま空気してよ。


 男は雷魔法を浴びたかのように顔を驚かせて膝をつく。


「……あれ? 気持ち悪いって言われたのに気持ちいいぞ?」


 何を言っているんだこいつは。

 周りは「おお」と揃えて驚きの声を発する。

 状況がまったくわからないが、ともかくオウカがギルドで人気急上昇中なのか?

 男は膝をついたまま顔を上げた。


「オウカさんは奴隷でありながらもスライムを千体以上、さらにはクイーンまで倒したと聞いています!」

「うぇ? ええっ!?」


 うんうん、確かに間違っていない。


「そして未熟な低ランク冒険者の主を懸命にサポートし、昇格まで引っ張ったと」

「な、なんですかそれ」


 うんうん、未熟とは些か心外だが、懸命にサポートしてくれたのは間違いない。


「主がダンジョンで気絶してもなお戦い続けボスを倒し、さらには主をギルドまで運んだと聞きました!」

「それは違います!」


 うんうん……どうしてそうなった?


 オウカに指摘されて、周りの冒険者もざわつく。


「違うらしいぞ?」「しかし実際に運ばれてるのを見たんだが」「それにあいつ」


 全員の視線が俺に集まる。


 俺の首元には『00』と数字が刻まれている。


 この世界における首元の数字は「キズナリスト」と呼ばれるフレンド機能みたいな存在だ。契約を交わせば、相手のステータスが一部自分へと反映される。

 数が多ければ多いほど楽しい仲間がぽぽぽぽーんで強さもぽぽぽぽーん。


 つまり、俺がぼっち冒険者だという証明である。


 群がっている冒険者も多くて5、6といった数字しかないが。

 オウカは奴隷のためにキズナリストが使えない。首元には数字の代わりにハート型に似た模様が浮かび上がっている。


「だからね、オウカさん」

「いえ、お断りします」


 微笑みかけてくる男にきっぱりと告げるオウカ。

 しかし男は、


「すみません、もう少し冷酷な感じで拒否してください」


 目的を見失っていた。

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