第61話 喰らう側
ドラゴンは雄々しい声を上げる。声一つで地が揺れ壁がぱらぱらと崩れた。
「そんな、なんで……」
「そうそれ! その顔! さすが妖狐は分かっている!! ド定番の絶望顔がたまらない! 顔が痒くなってしまいますよ!」
オウカの震えて声に、アンセロが己の顔を何度も引っ掻く。
「随分レベルが上がってるじゃねえか……なんだ、息するだけで強くなれるのか?」
「やはりあなた様は見えるようですね! そう、ドラゴンは時と共に成長する希少な魔物! 長く生きればそれだけ強大な存在となる!」
意識を保つために冗談交じりで放った言葉を、アンセロが肯定する。
ふざけるな。なんでモンスターが勇者候補以上のチートを持ってるんだよ。
「もちろん、このままでは私も巻き込まれてしまいますので、味付けはさせてもらいますよ。
アビリティ発動――
途端にドラゴンが呻く。
瞼を大きく見開くと、眼球が今にも零れてしまいそうなくらい飛び出した。
その瞳が七色に変色する。
あれが……奴の幻覚魔法か。
まるで寄生虫にでも憑りつかれたかのようだ。
「オウカ」
「逃げろだなんて、言わないでください!」
俺が言おうとしたことを先読みしたオウカが言葉を遮る。
「私は仲間です。最後までツムギ様と戦います」
「いや、だめだ」
オウカの肩を掴む。
「ダメなんだよ、オウカ」
「でも、ツムギ様!」
「違う、違うんだ」
囁いているんだ。
心の奥で、何かが。
生きたいという願望が、執着が。
醜い感情が。
「思い出したんだ」
地下で俺は笑っていた。
生きたいと足掻いていた。
必要なのは、冷たさ。
不必要なのは、心。
己を殺せと、囁く。
「アビリティ――絆喰らい」
影が蠢く。
部屋を覆うように伸びていき。
影に青い眼が生えた。
影に白い牙が生えた。
「――――!」
高音が部屋を揺らす。
「ツムギ様――」
「大丈夫だよ」
俺の陰から生えた化け物が、大きく口を開いて――俺とオウカを飲み込んだ。
「はははは! 何をするかと思えば! 自分の能力で自殺ですか! つまらない男だ!」
真っ暗な視界でアンセロの笑い声だけが聞こえる。
「状況判断には些か早計じゃないか?」
視界に光が戻り、再び赤い部屋の中。
変わったのは、身体の傷のみ。そのすべてが消えていた。
「ツムギ様、傷が、傷が無くなっています!」
地面に落ちたダガーと俺の様子を見てオウカが声を上げる。
アンセロは尚も笑う。
「あなたのアビリティは回復魔法でしたか! いや、時空? どちらにしても、いまさら無意味! 目の前の竜を倒す術などないでしょう?」
「倒すなんて、生ぬるいこと言うなよ」
「あぁ?」
「俺たちは命を懸けて、心を殺して、喰うか喰われるかをしているんだぜ?」
「ならばあなたが喰われる側! そのまま竜の餌になりなさい!」
「勘違いするなよ。俺のアビリティは喰らう側だ。
餌はお前らなんだよ」
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