第62話 光線
青みがかった視界で、アンセロの表情が微かに歪んだのが見えた。
「ほざくなよ、孤独の冒険者が! あなたは素直にキズナリストを使えばいい! 数字を増やして呑気に狩りごっこをしていればいいのですよ!」
「何を気にしているのが知らねえが、俺にキズナリストなんて必要ないんだよ」
「なら孤独なまま死になさい!」
ドラゴンの咆哮が鼓膜を突き破ろうとする。
「煩いんだよ」
右手の親指を噛み切り、左手の手の平に血をなぞる。
「立場を弁えろ。お前は喰われる側だ」
ドラゴンが口を大きく開くと、そこに火球が生まれる。
それを余所に、俺はドラゴンに向けて左手を伸ばした。
「我が下に名を連ねよ」
手の平の血が赤黒く光りだすと同時に、背後の影がドラゴンに向かって伸びた。
ドラゴンが口内に作り上げた巨大な火球を放つ――が、影が白い牙を上下に開き、炎を飲み込んだ。
その勢いのままにドラゴンとぶつかり合い
――そこには闇だけが残った。
ドラゴンすらも覆った黒。それはすぐに小さくなり、俺の影へと戻ってくる。
「は、はぁあ!?」
魔族の声が響く。
赤い部屋には何も残らなかった。
ドラゴンがいたという形跡すらもなく、俺たちが入ったときと同じ三人だけの空間。
それに加えられたのは、俺の後ろで高音を発し続ける絆喰らいの影のみ。
「召喚が解かれた!? 私のアビリティが上書きされて竜が元の場所に戻っているなど! なぜになにゆえ、なにをした!」
「喰らった、それだけだ」
一歩前へ。
さらにもう一歩。
アンセロとの距離を縮める。
「そういえば、いくつか気になっているんだよ。
なぜ魔族にもキズナリストがあるのか。
なのにお前のステータスが変動しないのは何故か」
アンセロまであと数歩のところで止まる。
「答えてくれるよな?」
「なわけないでしょう!」
アンセロが俺に向かって火球を放つ。
しかし、あっさりと俺の後ろの影に阻まれる。
「私はあの方の命に従って妖狐を使ったまでだ! そしてキズナリストを使わない孤高を気取ったものを殺せと! それなのに!」
何発と放たれる魔法がすべて影の口の中へと取り込まれる。
「なるほど、お前の上がいるのか」
「くっ……」
自分が口を滑らせたことに、魔族は目元を震わせる。
「なら、そいつに聞けばいいな。お前は不要だ」
影が再度口を開くと、ドラゴンが炎を放ったのと同様に、口の中で白い光が形成される。
「ドラゴンとお前が放った分の魔法だ」
「喰らった魔法を再度放つなどそんな――」
影から放たれた光線が、アンセロを飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます