第406話 幻層域

 理との距離が詰まる。

 同時に互いの剣がぶつかりあった。

 魔力で作られた剣は甲高い音を発することはない。代わりに、魔力の衝突によって弾ける。

 反動で腕が吹き飛びそうになるのを堪えながら、もう片方の腕を振るう。

 再び衝突。

 その間に剣を作り上げて振るう。

 スピードが増していき、互いの剣が大きく弾きあったのを好機と見て、すぐに剣を生成。二刀を振り下ろすが、それは相手も同じで二刀によって防がれる。弾かれた勢いで後ろへと下がった。


「拮抗するか」

「仕方がありませんね」


 彼女が小さく息を吐くと同時に、プレッシャーがどっと大きくなる。理はまだ本気ではなかったらしい。

 まあそれはこちらも同じ。いくらこんな状況でも、勝つために相手の様子を伺うのは当然だ。


十六夜散華ナタシュバラ!」


 突如黒くなった視界から理が消える。

 気配が閃光となって俺を横切った。

 僅かな光に反応した俺は身体を逸らすが、


「ぐっ!?」


 同時に腹部に強烈な痛みが襲う。

 掠った程度で済んだみたいだが、連続で食らうわけにはいかない。


「極魔法!」


 周囲に稲妻を連続で落とす。

 当たるとは思っていない牽制だ。


 暗闇が晴れて理の姿が映る。


 剣を高く持ち上げていた。


 魔剣に纏う魔力は、これまでに感じたこともないほどのものだった。


「それが世界を滅ぼすほどの力ってことか」

「あなた様の心を壊すにも十分ですッ!」


 大きく振られた剣から魔力の波が放たれる。

 これを俺が受け止めきれるわけがない。


幻層域ファラトゥ!」


 俺の前に黒い穴が生まれる。

 魔力の塊はその穴へと全て飲み込まれた。


「ッ……」


 理の肩が大きく上下に動く。その手から魔剣は消えていた。

 対して俺は、


「ふぶッ!?」


 口から吐血した。

 幻層域はここではない別の世界を作り出すアビリティ。

 存在する別世界ではなく、そのものを作り出す。ちょうど虚無界ラトゥが入る世界を作るアビリティだ。

 だから理の攻撃も別世界で弾けたはずだが、その威力が世界ひとつ壊すほどなら、領域を超えて俺にダメージが及ぶのも当然か。

 身体が支えきれなくなった俺はその場に崩れた。


「わた、しは」


 理は荒い息のまま立ち上がり俺に近づいてくる。

 そして俺の胸倉を掴むと、思い切り右拳で殴ってきた。

 抵抗できなかった俺は白い空間を転がる。

 仰向けになった俺が視線をずらすと、隣には鎖にまみれた自分の姿がある。


「もう死にたく、ないのです」


 再びその腕に魔剣が握られ、大きく振り上げられる。

 空間を揺らし、歪ませるほどの魔力が、この深層心理世界を掌握していた。

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