第224話 友人の家

「くそ! 家が多すぎるし同じのばっかじゃねえか!」


 建物の屋根を伝いながら愚痴を吐く。

 現在、俺はマティヴァさんがいるだろうという家を探して、王都の建物を駆け巡っていた。


 ギルドからの依頼は花嫁強奪。そしてある程度の期間、マティヴァさんの身を隠すことだ。

 敵になるのはあの豚兄貴だ。一応貴族ではあるしリスクが伴う。俺だけでなくレイミアにもだ。

 俺がすべきなのは目立たないこと。ギルドには俺が依頼を受けたことや、そもそも依頼を出したことを隠してもらうよう約束させた。

 あのアマゾネス姉貴にどこまで権限があるのか知らないが、あの人から漏らなければ同じことだ。


 そういうわけで、未だ紫色のパーカーの上に認識阻害のローブを羽織って走っている。


「屋根の区別がつかない」


 一応、貴族の住む地域の近くの青い屋根と聞いているが、この世界は明確な住所というものがないらしい。

 加えて、青い屋根はごまんとあるし、貴族の地域もわからない。

 いや、あった。道の一角に憲兵が二人立っている。そこには大きな鉄格子のような門まで設置されていた。

 あれが貴族地域への入口か。レルネー家もあの先のあるのだろう。

 いつもは学院で話し合いを済ませているから、レルネー家にはまだ訪れていない。

 が、そんなことは今関係ない。


 門の近くに青い屋根の家を見つける。

 とりあえず聞いてみて、違ったら別を探すしかない。

 アマゾネス姉貴によれば、マティヴァさんが戻ってきているなら実家にはいないはずだという。

 実家だとすぐにあの豚が駆けつけると見込んでだ。実際、マティヴァさんの実家に向かったみたいだし。

 こちらはマティヴァさんの友人の家らしい。

 元受付嬢で、今は帝国騎士団の人と結婚したとか。

 家の前に降りて扉を叩く。

 ローブのフードも外しておく。


「はい〜? どちら様?」


 出てきたのは、マティヴァさんと同じくらいの歳に見える赤茶色の髪をした若い女性だった。


「すみません、ギルドからの依頼で来た者です。

 こちらにマティヴァさんはいらっしゃいますか?」

「……ギルドの依頼っていう証拠は?」


 お姉さんの目が鋭くなった。同時に、ここにマティヴァさんがいて、お姉さんの事情を把握していることが確信できる。

 しかし証拠がない。ギルドからは何も貰っていない。


「シーファ? どうしたのお?」

「あ、マティヴァ、今来ちゃダメ」


 家の奥から聞きなれた声がした。

 お姉さんが慌てて隠そうとするが、俺の視線ははっきりとその姿を捉えた。

 大きめの白いシャツ一枚で、さらに胸が強調されすぎてパンツがちらりと見えているマティヴァさんである。しかも寝癖付き。


「え……え!? ツムギちゃん!?」


 驚きの声と同時に、顔が赤くなっていく。そして彼女は逃げるように二階へと駆け上がっていった。

 お姉さんは顔に手を当て、ため息をついた。

 家の中だと無防備になる人っているよね……。

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