第225話 隠れる場所

「疑ったりしてごめんなさいね」

「状況は分かっているので、お気になさらず」


 テーブルお茶を置いて、お姉さん――シーファさんはテーブルを挟んだ俺の向かい側に座る。

 最初はインギーの手の者だと疑ったらしいが、マティヴァさんの様子で大丈夫だと判断してくれたらしい。おかげで家に上がらせてもらえた。

 一回目でマティヴァさんの居場所が掴めたのは幸運だった。当然インギーもまだ来ていない。

 しかし肝心のマティヴァさん本人が、階段と屋根の間からこちらを覗いて来るだけで近寄ってこない。


「もう、マティヴァ。いいからこっち来る」

「え〜、だってえ」


 シーファさんに叱られ、子供のように駄々をこねるも、渋々と言った様子で降りてきてくれた。


 白い下着の上から青のワンピースを着て、腰には組紐のような柄の良い紐を結び付けている。寝間着から着替えてくれたらしい。

 既に直った寝癖を気にかけるように、髪を何度も撫でながら、シーファさんの隣に座る。


「子供に寝癖見られたくらいで気にしないの」

「うう、でもでもお、ギルド嬢としてはあ」


 そんなに歳も離れてないと思うが子供扱いされてしまった。どちらかと言えば今はマティヴァさんのほうが子供っぽいが。


「えっとぉ、ツムギちゃんはギルドの依頼で来たんだっけ?」

「ええ。状況としてはぶ……インギーがマティヴァさんの実家に向かいました。

そうかからないうちにこちらにも訪れてくる可能性があるので、マティヴァさんには一緒に逃げて貰います」

「花嫁強奪ね」


 避けていた言葉をシーファさんが口にしてしまう。何故どことなく楽しそうな表情なのか。


「経緯については何も聞いてないんですが、どうして一方的に婚約なんか……」


 言いながら、こちらでは一般的なのかもしれないと脳裏によぎる。

 元の世界だとどうなんだろう。許嫁とか本人の意思に関係なかったりするかな。

 しかし、こうも逃げている以上、一般的ではないはず。


「えっとねえ、どこから説明すればいいか。

 ただ、私にもはっきりわからないんだよねえ」


 てへへと笑うマティヴァさんに、シーファさんがやれやれとため息をつく。


「一目惚れって噂もあるわね。

 ただ、あの男は何を企んでいるかわからないわ。一番好きなのは権力だっていうもの」

「権力……マティヴァさんを嫁にすることとは関係なさそうだが」

「本人もボケーっとしてるからねえ。あの男に変な事言ったんじゃないの?」

「そんなことないよお」


 マティヴァさんは手を大振りして否定する。

 しかし、ソリーでの言動を見る限り、男を勘違いさせる才能はありそうだが。


「ほら、彼だって微妙な顔してる」

「ツムギちゃあん!」

「ともかく、こちらが拒否し続けることで諦めてもらうことはできないんですか?」

「無理無理。金と権力で遊んでる豚よ。自分の思い通りにいくことしか考えてないわ」


 大丈夫かなレルネー家……。あの兄だけが権力を振りかざしていると思いたい。


「どちらにせよ、この子が捕まらなければ、あの男は妄言を吐き続ける豚でしかないわ」

「そうですね。どこかいい隠れ場所があればですが」

「あるじゃない。あなた、冒険者でしょ?」


 どういうことだ。

 シーファさんが口角を吊り上げて窓の方を指差す。

 見えるのは貴族地域の豪華な建物の数々。

 いや、彼女が指しているのは、その先にある王城のさらに先――


「まさか、ダンジョンに!?」


 ワガハイは大魔王ク〇パか!?

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