第223話 インギー・レルネー
「インギー・レルネー……卿」
アマゾネス姉貴が顔を顰める。
レルネーってことは、レイミアの兄貴か。豚じゃなかったそりゃそうだわな。
よく見れば後ろについてるメイドも、レイミアについてたメイドのラセンとよく似てる。姉妹でメイドしているのかもしれない。身長的にラセンが姉かな。
思考がそれてしまったが、レイミアの兄がなぜマティヴァさんを探しているのか。
我が姫、とか言ってたな。いままでの流れでなんとなく察しがついてしまうが。
「ぶほっ! わざわざ未来の旦那様が来てやっているのだ!
早々に顔を出させるのが筋だろう?」
意味不明なことを言い出しているが、
「マティヴァはここにいない……ですが」
アマゾネス姉貴がぎこちない口調で答える。
「ぶぅう! そんなはずはない。
ソリーのギルマスが死んですぐにこちらに戻ったことは知っているぞ」
「ギィクメシュが、死んだ!?」
あー言っちゃった。ほら俺が睨まれる。
仕方ないので頷いておく。
「待ちな、ってください。こっちはギィクメシュが死んだなんて初耳、ですが。
マティヴァもここに顔を出してない、です」
そうなるとマティヴァさんは何処に行ったのだろう。
と、豚子爵が「ぶひっ」と鼻を鳴らしてにたりと笑みを浮かべた。
「ならば両親のもとで花嫁修業だろう。まったく、健気な娘よ。
行くぞ、フェリシア」
「はい、旦那様」
インギーとフェリシアと呼ばれたメイドが踵を返して、またドスンドスンと音を立てながらギルドを出ていった。
ギルドに貴族が来るのは珍しいのか、さすがに周りにいた連中もざわついている。
「……あんた、豚の手先じゃなかったんだね」
アマゾネス姉貴が呟く。
「あれが、なんなんだ?」
「インギー・レルネー。レルネー家の長男でありながら、次期当主の座を降ろされた哀れな豚さ」
「マティヴァさんは、まさか」
「一方的に婚約を押し付けて、無理に自分のものにしようとしてるのさ。
もちろんマティヴァはそんなこと認めてない。
だからギィクメシュが守ってソリーに逃がしていたんだが……まさか死んじまうとはね」
姉貴が大きくため息を吐いて、それから俺を睨む。
「あんた、マティヴァとはどういう関係だい?」
「どういう関係でもないが……まあ、マティヴァさんが意味ありげに結婚について語っていた理由がわかったよ」
そう答えて俺も踵を返す。
「帰るのかい?」
「いや、マティヴァさんがいないなら普通に依頼を探して受けるさ」
「冷たいね……。
いや、マティヴァに依頼を見繕ってもらうつもりだったなら、丁度いい」
振り返ると、姉貴が不敵な笑みを浮かべていた。
嫌な予感しかしない。
「代わりにアタイが依頼を見繕ってやるよ。
さっそくだが受けてもらうよ――花嫁略奪」
「……拒否権は」
「ギルドすべてを敵に回していいなら、構わないよ?」
特務扱いですかね……。
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