第367話 建物の外

「とりあえず、ここを出よう」

「どこなのでしょうか……?」

「俺にも分からないから、まずは場所の確認だな」


 起き上がって棺から出る。

 床は草や苔に浸食されている。ダンジョンではなく、人の手で建てられたものだと思うが、やはり人がいる気配はない。


 オウカを棺から引き揚げ、虧喰らいも手に取る。


「……一度、死んだんだな」


 オールゼロに二度刺され、最後の魔法で俺は死んだ。

 リーがいなかったら、俺はあそこで終わっていたんだ。


 ステータスを開く。

 そこにはドラゴンたちのステータスも、リーの魔法の名前も見当たらない。

 絆喰らいによるリストも、誰一人として載っていない。


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:65

 HP :500/500

 MP :940/940

 攻撃力:650

 防御力:710

 敏捷性:660

 運命力:65


 アビリティ:異言語力・異界の眼・絆喰らい

 スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法


「孤独なる者、か」


 元の世界では、人と関わることも避けて、ぼっちになって。

 自ら望んで孤独を選んでいた。

 この世界でも、キズナリストの使えない俺は価値がなく、一人で戦い続けると思っていた。

 それが、オウカを購入したり、リーと契約したり。結局誰かと関わりながら生きてきた。


「孤独ってのは、神様に近いのかもしれない」

「……どういうことですか?」

「見えないものに縋りたがる、人の悪い癖だ。

 とまあ、孤独を語りたがるのも同じだな」


 首を傾げるオウカの頭と耳を撫でてから建物の外へ出る。


「っ……」


 細い光が視線に直撃して思わず目を細める。

 一瞬白くなった景色がすぐに戻ってきて、その光景に目を見開いた。


「すごいな……」

「まるで、燃えてるみたいです。でも、綺麗」


 森の中。

 道を埋め尽くす木々の葉は赤や橙色で染め上げられていて、一言でいえば紅葉が広がっていた。


 僅かな光を吸いこんで煌めく色彩が、絨毯のように敷き詰められた褐色の草道が、この世界で見たことない景気を作り上げていた。


「この世界にも、秋があるのか……?」

「あき?」

「えーっと」


 季節を知らなそうなオウカに簡単に説明する。


「確かに数か月前は王都も暑かったですね。王都よりさらに北では白い雨の降る場所もあるとシオンお姉様も言っていました」


 この世界は明確な季節というものはないっぽいが、四季に近い現象は起きている。ソリーでも梅雨らしき雨が続いた時期があったし。

 ただ、シオンの話を加味すれば、地域によって極端に天候が違うという如何にもファンタジーらしいパターンも考えられる。


「時期的なものなら、王都からそんなに離れていなさそうだが」

「シオンお姉様、無事だといいんですが……。

 クラビーさんのことも心配です」


 オウカに辛いことを思い出させてしまった。


「みんなの無事を確認するためにも、戻らないとな」


 たどり着く場所も分からない森を歩き続けていいものか不安は残るが、動かないと始まらない。

 一度後ろの建物を見る。

 外から見ると、やはり教会と言うのが一番合っているだろう。

 ならばこのあたりは人が住んでいた可能性がある。

 もしかしたら近くに村なんかがあるかもしれない。


「行こう」

「はい」


 離れないように、俺はオウカの手を握って歩き出した。


***


「あれは……」


 ツムギたちが森の中を歩く姿を、木の上から見つめる者がいた。

 気配を殺し、ツムギたちに存在がばれないよう細心の注意を払い。

 その者は目を瞑ってじっと黙り込む。

 そして一度頷いてから、再び目を開けた。


「小さいほうは、殺していいと思う」


 が、二人を捉え続ける。

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