第368話 同じ場所

「なるほどな」

「……ツムギ様もお気づきでしたか」


 森の中を歩き続ける中、ちょっとした違和感に気付いた。

 それはオウカもおなじ様で、俺のうわ言にも近い呟きに反応した。

 いや、ちょっとしたと言ったがこれは結構大きな問題だ。何といってもすでに一時間近く歩き続けているのだ。

 これは、もう……。


「お腹がすきました」

「……」


 ぐぅ、とオウカのお腹が鳴った。

 どうやらオウカと俺の気づいていたことは違ったようである。


「ゆっくりご飯にしたいところだが、生憎アイテムボックスに食料はないし、なにより森を抜け出さないと危険だ」

「そうですよね……そういえば、ずっと歩いているのに景色も何も変わらな――ッ!?」


 オウカの言葉が途切れる。

 俺も目の前の光景に、違和感の原因を突き止める。


「どうして、また教会が……!?」


 道の先に現れたのは、先ほどまで俺とオウカが眠っていた建物だ。

 やはり、同じ場所を歩いたらしい。

 一応建物の中も確認したが、先ほどいた場所と相違なかった。

 

「もう一回、歩くぞ」


 今度は進んだ道に土魔法で小さな隆起を作り出しながら進む。

 しかし、


「やはり同じ場所だな」

「曲がったりせず真っすぐ来たはずなのに……」


 走ったりしながら進んだので先ほどよりも短い時間ではあるが、同じ建物、そして俺が発動させた土の隆起に再会する。


「私たちは、迷ったということでしょうか?」

「簡単に言ってしまえばそうだが、事態はもっと深刻だ」

「どういうことでしょう?」

「この現象がなにによって起こされているのかだ」


 一度教会の中に戻る。


「この同じ道を繰り返す現象……考えられる可能性は二つだ。

 一つは森そのものが人を迷わす特性を持つ可能性」

「森がですか?

 森自体が魔法を持っているとか、そういった感じでしょうか?」

「そうだな。この地域か森か……それ自体が膨大な魔力を有していて起こる現象とか、この建物のように誰かが昔住んでいて、敵から身を守るために設置した魔法が未だ作動しているか、とかだな」

「そしたら、もう私たちは出られないんじゃないですか!?」

「可能性はゼロとは言い切れない」


 そんなあ、と眉尻を下げるオウカを不安にさせまいと頭をわしわし。なんか撫でてばっかりだな。


「もう一つの可能性は、何者かが俺たちを標的としてこの魔法を行使している場合だ。

 できればこっちのほうが分かりやすいし、対策もとれていい」

「どういうことです?」

「もし森の中に誰かが住んでいて、突然現れた俺たちを警戒して魔法を発動しているのなら、どこかで次の行動を起こすはずだ。そうなればこちらも次の行動に出ることができる」


 問題は、そんな気配が一切しないということだが。

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