第187話 互いの隠し事

 生徒会長は自身の肩に乗せた三つ編みの髪を撫でると、小さく呟いた。


「……やはり君は、勇者候補か」


 勇者候補。それを知っているのは王国の関係者だけのはず。


「なに、簡単さ。

 王都には三大魔法師貴族が住んでいる。

 第一位の時間の魔法師、ケリュネイア家。

 第二位の精神の魔法師、レルネー家。

 第三位の空間の魔法師、ネメア家。

 これら御三家は王国とも繋がりがある。当然、王女様が勇者候補を召喚したことも知っている。

 それに、エル王女の推薦で30名の特別生が入学している」


 どうやら、クラスメイトはこの学院に入っているらしい。

 見かけた記憶ないけど。


「いまはダンジョンの深くへ潜っている。今回は本気で攻略するつもりらしいから、あと一か月では戻ってこないだろう。

 そういう意味では彼らに期待していない」

「王都のダンジョンか……確かに、あのダンジョンは上も下もあるからな。攻略には時間がかかるだろう」

「よく知っているじゃないか。君も潜ったことがあるのかい?」

「……いや」

「そうか。

 まあ、彼らの存在と、新たな入学者でGクラスにも関わらず、魔法師団長や弓聖と話しているなんてのは、疑われてもおかしくないだろう?」


 ごもっともである。それだけの情報があって、こんな失礼なGクラスの生徒がいれば当然の答えだろう。

 もしくは、相当の馬鹿が分け隔てなく話しかけているくらいだ。


「確かに、俺は勇者候補の一人だ。いや、一人だったというべきか。

 残念だが、俺は彼らみたいに特別な強さはない。期待してもらっているなら悪いな」

「そうかい。まあ、それはそれで問題ないだろう。

 なぜなら――妖狐族を差し出せばいいのだから」


 やはり、本来の目的はそっちか。


「あの魔族が言っていたね。諸君が何か隠していると。

 知っているんじゃないのかい? 妖狐族。

 もしくは、常に赤ずきんを被ったオウカくん、かな?」

「だとしたら、どうする?」

「いけないな、ツムギくん。こういう場面でははっきりと否定しないと、肯定と同じだ」


 こんな心理戦得意なわけないだろ! やめてくれよまじで。

 元々普通の高校生なんだからそんな高度なことできるわけないじゃないか。ぼっちだぞぼっち! 一人でやれってか!


「もちろん、可能であれば差し出してほしい」

「断る」

「……彼女が大切かい?」

「あれは俺の命だ。俺のものを誰かに譲るつもりはない」

「ふむ、0点の回答だ。君の首の数字と一緒でね」


 皮肉を重ねてくるとこと悪いが、そろそろこちらも確認に入らせてもらおう。

 互いの隠し事を曝け出そうじゃないか。


「なら生徒会長は、首の数字、さぞかし多いんだろうな?

 三つ編みで執拗に隠しているんだ。

 どうしても他人に見られたくないらしい」


 生徒会長は目を細める。


「勇者候補は他者のステータスが見えると聞いた。

 ツムギくんは見えているのだろう?

 どこに疑問があるんだい?」

「大ありだよ」


◆レイミア ♀

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:52

 HP :3310/3310

 MP :2620/2620

 攻撃力:3040

 防御力:3040

 敏捷性:4342

 運命力:331


 アビリティ:闇神楽・黒墨瞼

 スキル:上級水魔法・上級風魔法・中級地魔法


「勇者候補はステータスが見える。

 任意でその範囲も選ぶことができる。

 基本俺は相手のステータスしか見ない。

 だからいま、別のを見ようとしたんだ。

 ――キズナリストをな」

「ほう」


◆レイミア ♀

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:52


キズナリスト:


「生徒会長、いやレイミア・レルネー。

 お前のキズナリストには何も表示されない。

 つまり誰ともキズナリストを結んでいない。

 にも関わらずステータスが一般のものとは違う。

 さあ、その謎を聞かせてもらおうか」

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