第188話 偽造

 俺の疑問への回答は――殺意だった。


 左から何かが来て、咄嗟に左手で握りしめる。

 拳、ではなくナイフだった。

 いやああ痛い痛い!?  判断ミスした!

 ともまあ脳内でふざけている間にも、両脚を引っ掛けられて身体が宙に浮く。手から離れたナイフが今度は一直線に俺の顔面へと振り下ろされる。


 そこはステータス差で動きが予測できた。

 相手の腕を握り流れをずらす。そのまま腕を後ろへ捻って、相手の背中に乗り、動きを止めた。


 攻撃してきたのは、生徒会長に付き添っている水色の髪のメイドさんだった。さっきまで生徒会長の隣にいたはずなのに、いつの間に動いたんだ。


◆ラセン ♀

 種族 :人間

 ジョブ:暗殺者

 レベル:52

 HP :3310/3310

 MP :2620/2620

 攻撃力:3040

 防御力:3040

 敏捷性:4342

 運命力:331


 アビリティ:闇神楽

 スキル:上級水魔法・上級風魔法・中級地魔法


「なるほど。同じステータスということは、こっちが本物か」


 首元の数字は9。キズナリストもちゃんと載っていた。

 生徒会長のは、ステータスの偽造。

 嘘で上塗りしているということか。


 と、首に何かが引っかか――


「うごっ!?」


 首が後ろに引っ張られて身体が仰け反る。

 足で俺の首を掴んだのか。どんだけ柔らかいんだよ!?


 そのまま上下反転。仰向けになった俺の上にメイドさん。

 完全に殺す目付きでナイフを構えていた。

 片手は抑えられている。

 振り下ろされた腕をもう片手で掴んだ。

 結構な力だ。しかし、俺がもう少し力を加えれば。


「そこまでだ」


 生徒会長が口にすると、メイドはすかさず後退して彼女の横に戻る。


「見事だよ。彼女の攻撃を止めるなんて王国騎士団でも難しいのに」


 生徒会長がわざとらしい拍手を送ってくる。

 確かに、動きが予測できなければ刺されていたかもしれない。


「殺すつもりだったのかよ」

「半殺しにして、自分の命と引き換えにオウカくんを差し出してもらおうと思ったのだが、いやはや、やはり勇者候補なだけはある」


 生徒会長はコツコツと足音を立てて俺の前に来た。


「しかし、オウカくんの事が公になれば君としても困るだろう?」


 そして、仰向けの俺に対して手を伸ばす。


「私の真実を明かそう。

 代わりに君たちの真実を教えてくれ。

 協力関係というのはどうかな?」


 いつもの俺なら「だが断る」と即答しているとこだが。

 しかし、オウカを無闇に危険に晒す必要は無い。

 この関係もライムサイザーとベリルを倒すまでだ。

 その後は、お互い素知らぬ顔で過ごせばいい。


 俺は無言で、その手を握り返した。

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