第5話 0

「姫様、さすがにそれは」


 顰め面をしていたローブ姿の一人が近寄ってきて諫める。


「ハーニガルバットの血を、まだ素性の把握できていない者に契約させるなど……」

「ここに召喚された時点で素性は分かっているも同然ではありませんか。それにこれは私がお願いしていることです。私が何もしないのは失礼です」


 急に王女様らしい力強い言葉でローブの人を黙らせた。


「それでは」


 王女様が俺の手を掴むと、ナイフを優しい力で滑らせた。うわー手小さい。そんな場合じゃない。


「左手の甲を前に出してください」

「あ、はい」

「契約の言葉をお願いします。復唱で構いませんので」

「すみません……」


 エル王女の優しい対応にどんどん腰が低くなっていく。女の子にこんな優しくされたの初めてなんだもん。手小さかったなあ。だからそんな場合じゃないって。


「愛と友の神ミトラスに誓い」

「あ、愛と友の神ミトラスに誓い」

「ここに新たなる絆を欲する」

「ここに新たなる絆を、欲する」


 エル王女の甲に自分の血を引く。なんか申し訳ない。

 血は光をだして消えていく。


「これで契約完了です。首元の数字も増えておられますね」


 にこりと笑ったエル王女が俺の首元を優しくなでた。

 くすぐったさと、何とも言えない感覚が背中を這っていった。


「ステータスを確認してみてください」

「はい、ありがとうございます」


 ステータスを表示する。


「…………ん?」

「どうかされましたか?」


 自分は何を見ているのだろうか?

 キョトンとしたエル王女を見てから、改めてステータスを覗く。


「えっと……キズナリストの契約を交わすと、ステータスが上がるんですよね?」

「そうですが……もしかして上がっていませんか!?」


「そんなはずは!」と王女様が俺の腕にしがみついた。一瞬ドキリとしたけど、ステータスを見るためか。


「こ、これは……」

「えっと、上がっていないというか」


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 クラス:-

 レベル:1

 HP :1/1

 MP :0/0

 攻撃力:0

 防御力:0

 敏捷性:0

 運命力:0


キズナリスト:エル


「下がってますね」

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