第161話 これからどうするか
「ん~、このパフェおいしい~」
シオンが目の前の巨大パフェを一口食べて身悶えする。
「さっきまで食べる気分じゃないとか言ってたのはどこのどいつだよ」
「甘いものは別なのよ」
「あの、ツムギ様、私もいただいてよろしいのですか?」
俺の隣に座ったオウカが申し訳なさそうな顔で……いや、口の端から少しばかり涎が垂れていますよ。
「目の前であんな食べられ方して、食うなって方が酷だ」
「オウカちゃん、ご主人様がいいと言ったら素直に受け取るのも、奴隷としてのマナーよ。
それに、ここは奴隷も一緒に入っていいらしいし、そういう店なのよ」
口元についたクリームをペロリと舐めてから、シオンは周りを一瞥する。
確かに、首元にハートのような模様――つまり奴隷の人が何人かいるわけだが。
「……どういう店なんだ?」
「家族が奴隷になった場合、血縁者は購入を禁じられているわ。だから、親戚や知人に購入してもらって、期間が過ぎるのを待つのよ。でもそういう間も家族として過ごせるように、一部のお店では奴隷も入れるようになってるわけ」
想像したのと全然違った。
「ま、ツムギみたいにぃ? 奴隷に余計な感情をもって愛でてる紳士もいるかもしれないわね」
想像通りの方もちゃんと指摘してくれたが、俺は別にそうした感情を持ち合わせた記憶がない。
単純に生まれた場所での価値観の違いだろう。
「ともかくだ、遠慮せず食べることだ」
「はい! ありがとうございます!」
そうして一口運んだオウカのほっぺたが垂れていく。
微笑ましい光景を眺めていると、シオンがコホンと咳を一つした。
「それで? これからどうするの?」
「どうって、この後か?」
「今後の学院生活よ」
そう言われて、少し目を瞑る。
「……特段急ぐこともないし、来月の試験まではオウカの特訓かなあ」
「んふっ!?」
名を呼ばれた当人の、消えた耳の代わりに艶のある黒髪がピクリと跳ねる。
「あら意外ね。あんたはオウカちゃんを鍛える気がないと思ってたわ」
「どちらにせよ、強くなってもらう必要はあるし、本人がいまやる気あるからな」
「んふ!」
オウカが口をもぐもぐさせながら鼻息で答えるので、とりあえず周りについたクリームをハンカチで拭ってやる。
「俺は俺で調べたいこともあるしな。シオンの護衛もちゃんとやるから心配するな」
「護衛は別にいいんだけど……学院で狙われる機会なんてないでしょうに」
「まあ、一応仕事だからな」
というか、仕事でなきゃそもそも学院にだって入りはしない。
しかし、今回の依頼のおかげで、この世界について学ぶ機会ができたのは喜ばしいことである。
「それじゃ、学院で特別何かするってことはないわね」
「何かしたかったのか?」
「静かに勉強できるならそれで結構よ。
さて、改めてこれからどうするか」
「……この後か?」
「学生寮に戻ってもいいのだけど、男女は別。
だけど、奴隷は老若男女問わず一つの場所に押し込められるわ」
「俺は集団生活というものが嫌いでね」
「即答な上に真顔ね……」
次は宿探しだ。
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