第319話 壁
「お、おいコウキ」
堂々と宣言をした光本の肩を掴んだのは藤原だった。
「い、いま飛びだした奴を倒せばいいんだろ?
いまそいつと敵対する必要ないだろ」
傍から聞いていても、その言葉は完全に怯えを含んだものである。
というもの、やはり自分の魔法が通用しなかったことが藤原には効いたのだろう。
カラクリの分からない相手より、すぐに逃げ出した少女一人をどうにかしたほうがいい、というのは理にかなっている。
「あの子をどうにかして、それで僕たちが無事に解放される保証がどこにある?」
「!?」
「彼らは既に一人生徒を殺した。
殺す意思はあるってことだ。
それに僕たちは魔王復活阻止のためにこの世界に召喚されたんだ。
なら敵は魔族だけだ。邪視は――いまは敵じゃない」
光本は本来の目的から外れないよう考えていた。
だからこその宣言である。
「たとえここで邪視を倒したとして、それはあちらにも都合がいいこと。
それが魔王復活につながるかもしれないなら、僕たちは動いちゃいけないんだ」
「その通りだ、コウキくん」
レイミアが剣を構えていた。
「我らが倒すべきは目の前の魔族だけだ。
逃げた彼女は妖狐族というだけで、邪視とは関係ない。
すべて、そこの者の戯言だよ」
関係ないというのは嘘だが、ここで多少なりとも不安材料を取り除かねばならないというのがレイミアの判断だった。
オウカであれば生徒から逃げ切ることも、最悪は竜との戦いで見せた力で対抗することも可能と。
「街には冒険者を多く集めている。君たちの会話の間に連絡は入れた。
街の者は冒険者が守るし、こちらにも増援が来る。
冒険者は手練ればかりだし、数もこちらが圧倒している。
彼女が外へ逃げれば、捕まることもない」
わざわざそれを口にする理由。
それは不安があるからだ。
「愚かだな、レルネー家の娘よ」
オールゼロが嗤う。
「彼女がこの学院を抜け出せると思うか?」
「なんだと」
「すでに張ってあるよ、魔法くらい」
***
「なに……これ」
学院の建物を抜け出し、裏門までたどり着いたオウカは、状況をすぐに飲み込めずにいた。
目の前の小さな門を潜れば外である。一人で隠れる事もできるし、ツムギを見つけて近づかないよう注意することもできる。
にも関わらず、
「まるで、壁みたいなのがっ!」
目の前を叩くと、鈍い音が響く。見えない壁が目の前にあるかのように、オウカの進む道を遮っていた。
間違いなく魔族がなにか魔法を使っているとオウカは悟る。
「いたぞ!」
「っもう!?」
振り返れば、生徒たちが数人オウカを指差している。
外へ逃げれば逃げ切れる可能性はあった。
しかし、学院内だけとなればそれも難しい。
「でも、逃げないと」
死にたくないと思う。
生きろと主に言われてきた。
生き延びなければならない。
――ツムギ様!
オウカはさらに駆けだした。
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