第324話 魔法陣
「アンセロ、もうお前の攻撃は通らないぞ!」
「それは見ものですねえ!」
光本が正面堂々駆け出す。
何かある、とはアンセロも感じたのか光本に向けて火魔法を放ってきた。
真正面、と見せかけた火球の軌道が逸れて真横からの攻撃。
しかし、光本はそれも水魔法で正確に相殺した。
「ほう?」
急に精度が上がった。
「予知能力か何かですかねえ?」
「答える義理はない」
「人類ってのは冷たい人ばかりだ」
アンセロはさらに魔法を放つ。
今度は光本――ではなく、飛野目掛けて、最高速の魔法である。
アンセロは自身が精神魔法の使い手でもあるため、精神魔法の弱点なども把握している。
今回の場合は一人の人物を中心に全員が忠誠を捧げる奴隷型の精神魔法。この魔法が崩れるのは、拠り所が失われる場合か、その忠誠心が魔法で作られたものだと判明した時だ。
よってアンセロの選択は飛野を最優先で始末すること。もし彼女を始末したことで忠誠心が偽物だとすれば、全員の仲間への不信感は高まる。
そこを自身の魔法ともに突けばいい。
それも――飛野をどうにかできればであるが。
「藤原、ヒヨリを守って!」
「おうよ!」
アンセロの魔法が放たれると同時に、両木が藤原に指示を出した。
藤原の拳から放たれた魔法がヒヨリの眼前に飛ばされると、見事アンセロの魔法に衝突した。
「あなたも、予知……?」
「答える義理はない」
「ほう……?
まあ、勇者候補のアビリティが強力かつ特殊で、そこらへんのアビリティよりも優秀なことは知っていますけどね」
それなら、とアンセロは仰々しく両腕を広げてその手首をくるくると回す。
「勇者候補相手に多勢に無勢」
「僕たちは仲間と共に闘う、孤独だなんだと言っている魔族とは違うんだ」
アンセロの攻撃は光本と両木によって確実に防げる。
あとは確実に詰め寄って攻め切ればいいだけ。
光本のなかで勝利の道筋が見えていた。
――相手が自身らを弄んでいるとは想定せずに。
「では、こちらもメンバーを増やしましょうかあ」
両腕を顔の上下に持ってきたアンセロが手品師のように指先をくねくねと動かすと、指先から銀色のペンデュラムが現れた。
「はっ! なんだ、催眠術でモンスターでも操るのか?」
藤原、それは五円玉を使うんじゃないかとは光本もいちいち突っ込まず、アンセロの動きを注視する。
「モンスターを操る? まあ、同じようなものですが――モンスターだけとは限りませんよ?」
アンセロがペンデュラムを揺らしながら答える。
「でもこれは催眠術とかではなく、召喚術なのですよお」
「――光本君! あれ魔法陣だよ!」
飛野が叫んだ。光本もそれでようやく気付く。
あのペンデュラムは魔法陣を描いているのだと。
「空中に魔法陣を描くのは初めて見ますか?」
「このっ……!」
「遅いですよ」
光本が動くよりも先に、アンセロの前に四つの魔法陣が浮かび上がった。
「今のは魔法陣を呼び出す魔法陣。詠唱省略と近い感じですねえ。
さあ、呼び出されたこの魔法陣で私の仲間を――あなたたちの敵を呼び出しましょう」
魔法陣が強い光を帯びて白い稲妻を発する。
「この召喚魔法、どこに繋がっていると思います?
実はですねこれ――異世界になんですよ」
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