第323話 一目瞭然

「な、何言ってるんだよコウキ!」


 信頼している仲間に敵と言われ驚いた藤原が詰め寄ろうとするが、光本は魔法を前に突き出して牽制する。


「誰が相手の罠に掛かっているかわからない。

 そんな状況で後ろを任せるわけにはいかないよ」

「それなら、いま罠にかかってるのはあなた」


 両木が光本に告げる。

 他の二人からしても、それは一目瞭然だった。

 しかし、光本がそれを疑問にすることはない。

 既に全員の言葉は光本に届かない。


「そうか、君たちは僕を騙して罠に嵌めようとしている幻覚だね」

「な、何を言っているんだよコウキ……!

 敵はあっちだ、あの目を隠したアンセロとかいう男だ!

 間違えるな俺たちは仲間だ!」

「そうやって僕を誑かそうとしているんだろうけど、どうせあそこに立っている魔族も幻覚で本当の敵は――近くに潜んでいる!」


 光本が三人に向かって魔法を放つ。

 全員警戒していたおかげで、すかさず攻撃を避けた。


「コウキ目を覚ませ!お前が精神操作を受けているんだ!」

「そうだろうね。

 でないと、こんな危険な幻覚は見られない!

 本当のヒビキたちを返せ!」


 連続で発動される火魔法。


「くそっ、いきなり光本がやられるなんて!」


 魔法を避けながら、藤原はアンセロを睨む。


「仲間割れですかあ?

 悲しいですねえ。いくらキズナリストがあろうと所詮上辺だけの友情。

 心を食われてしまえば繋がりなどむしろ邪魔になるというもの」

「お前はあああああ!」

「ダメ藤原!」


 アンセロの言葉に逆上した藤原が突っ込む。

 両木が止めるが遅い。既にその後ろを光本が捉えていた。


「逃がすわけないだろ」


 火魔法が放たれ――


「まったくもう!」


 直前、光本の姿に重なったのは飛野だった。

 目の前に突然出てこられた光本は思わず魔法を引っ込める。

 飛野は右手に持っていたナイフで自身の左腕を撫でると、ぷくりと浮かびでた血を口に含み――光本と唇を重ねた。


「!?」

「なぁっ!?」


 両木と、一瞬後ろを見た藤原がその光景に固まる。

 アンセロは面白いものが出てきたと言わんばかりに口角を吊り上げて立っていた。


「アビリティ――花千華アイモネア


 飛野の目が赤く光り、唇が離れると糸が伝った。

 光本は呆然と立ち尽くす。


「私の玩具に手を加えないでくれる?」


 アンセロに告げる。


「なるほど、あなたがこの子たちのご主人様というわけですね」


 アンセロが腕を横に振るったと同時に、槍と化した水魔法が高音を発しながら飛野に向かって飛んでいく。


「止める!」


 前に出ていた藤原が対抗しようと拳に魔力を溜め込むが、


「邪魔ですよ」


 水の槍が藤原を認識したかのように避けたのである。


「ヒヨリ!」

「ッ!?」


 飛野は特別戦闘が得意なわけではない。

 アンセロの攻撃が避けられるはずもなく――


「火魔法!」


 ヒヨリの眼前で火魔法が連続して発動され、水の矢とぶつかり合い爆発した。


「ごめん、みんな。

 もう大丈夫だ」


 爆発の中で、アンセロを睨んでいたのは光本だった。


「元に戻ったんだな、コウキ!」

「ああ、ごめんね。

 次はもう、敵を間違えないよ」


「――なるほど、あの女を殺せば崩せそうですね」


 アンセロが呟いた。

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